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2回 授業案:第2章 精神科看護におけるケアの方法(1)
学習項目
1 .「治療的関わり」の考え方
1)コミュニケーションとは
2)コミュニケーションに影響を与える要因
3)日常生活におけるコミュニケーションの形
4)看護師に求められるコミュニケーションへの援助
今回の目標
コミュニケーションの種類とそれぞれの特徴が理解できる.
精神症状がコミュニケーションに影響を与える要因がわかる.
精神科におけるコミュニケーションの基本を理解できる.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ 33 精神看護学 生活障害と看護の実践,メディカ出版
資料映像「精神科看護におけるケアの方法」
パワーポイント
講義の工夫点・留意点
1. 事例を用いて,あくまでも身近なことから考えられるようにする.
2. 学生が自己の課題として考えるだけの時間をつくる.
3. 視聴覚教材を活用する.
講義の評価視点
教員への評価視点
1. 発問に対する反応,学生の表情.
2. 授業方法(話し方・教育機器の使い方・教材の量など),授業内容(興味・関心の度合い・量・論理性・構成・有効性・難易度など)の項目別のリストを用い,該当するものをチェックする.
3. 感想,学んだことなど自由に記入する.

学生への評価視点
1. 授業態度
2. 授業への出席率
3. 学生のレディネス
学生への自己学習課題
○予習
 テキスト(P.10〜16)を読んでくる.

○復習
 以下の2点についてノートにまとめてくる.
 1.言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションについて
 2.受容,共感,傾聴について

段階
時間
指 導 内 容
指 導 方 法
留 意 点
導入
5分
□本章での学習目標の提示

















□学習目標の提示
板書
○第2章で学習することは大きく分けて2つ
1. 精神に障害のある対象者への援助を進めるにあたり,援助の特徴と,なぜそのようにするのかがわかったうえで,具体的な方法を考えられること.
2.
精神に障害のある対象者は,病的な体験のために部分的に日常生活に支障を来たす場合が少なくない.生活を通じて,自己のあり方や生活スキルの見直しが求められる.日常の生活が治療的な環境として大きな意味をもち,またそこで援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを理解する.

説明
この学習目標に沿って,5回に分けて皆さんと考えていく.

板書(授業終了まで消さない)
学習目標
1.

コミュニケーションの種類とそれぞれの特徴が理解できる.
2. 精神症状がコミュニケーションに影響を与える要因がわかる.
3. 精神科におけるコミュニケーションの基本を理解できる.

説明
本章の学習目標の2.で,援助を行う看護師も治療的な環境の一つであることを説明したが,ここで「治療的関わり」について考える.
パワーポイント「本章の学習目標
















パワーポイント「学習目標
今回の学習を動機づける.
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
5分
□「治療的関わり」の考え方
・コミュニケーションとは
説明
対象者を理解していくために,コミュニケーションについての基本事項を整理してみる.
コミュニケーションには言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの2種類がある.
言語的コミュニケーション;情報を正しく効果的に伝える.
非言語的コミュニケーション;言語以外で自分の気持ちや感情を伝える.

板書
コミュニケーション
情報交換の手段

言語的コミュニケーション;話し言葉,書き言葉
非言語的コミュニケーション;視線・表情・身振り手振り・話し方

説明
コミュニケーションとは情報交換の手段であり,対人関係を形成するものでもある.情報の大半は非言語的コミュニケーションが占める.人と関わる場面でキャッチされるすべてのことを意味する.つまり,非言語的コミュニケーションとは,五感を使って感じられるすべてのことである.
どのような人の行動にも何かしらの意味がある.
沈黙そのものにも意味がある.
非言語的コミュニケーションは,みかたや感じ方によって,受け取り方は違ってくる可能性がある.
パワーポイント 「精神科看護におけるケアの方法」









パワーポイント「コミュニケーション
第2
段階
30分
コミュニケーションに影響を与える要因
精神症状が対人関係に与える影響

































薬の副作用とコミュニケーション













インフォームドコンセントのあり方



































対人関係の体験の少なさ
説明
○精神症状はコミュニケーションに影響を与える.

指示
学生1名を指名し,テキストP.10の「(1)精神症状が対人関係に与える影響」の第1段落,さらに第2段落の3行目までを音読させる.

板書
○精神症状
 陽性症状;もともと存在しない症状の出現
      幻覚・妄想,興奮,思考の障害
 陰性症状;あったものが失われていく症状
      意欲低下,感情の平板化,思考の貧困化

説明
陽性症状とは,幻覚や妄想,非常な興奮や思考障害など,今までなかったものが症状として現れる.
妄想は訂正不可能な誤った考えではあるが,すべてが誤っているとは限らない.内容そのものは理にかなっている場合もある.また,妄想の内容について,本当にあることかどうか対象者自身も疑問をもっていることも少なくない.
妄想の話の内容を理解しようと試みても難しく,コミュニケーションに影響を与える要因はここにある.しかし話の内容から,対象者が今どのような考えに支配されているのかを考えることはできる.
陰性症状とは,感情の平板化・思考の貧困化・意欲の低下.感情の平板化とは,感情の表現が極端に少ないか,あるいは外見上,欠落しているようにみえる状態.
陽性症状は今までなかったものが症状として現れるが,陰性症状はもともとあったものがなくなってしまう症状.

説明
薬物療法の発達によって,精神症状が緩和され,必ずしも入院治療をしなくてもよくなった.しかし,よりよい状態を保つために,長期的に薬物療法を受ける場合が多い.
副作用による構音障害のために,言語が聞き取りにくくなり,伝えたいことが相手に伝わらないという体験が生じる.伝わらないという焦燥感と,陰性症状が相まって,対人関係が疎遠になる場合がある.
また,副作用が起きていることを意図的に言わない場合がある.これは,副作用のためにまた薬が増えてしまうのではないかと思い,対象者は訴えてはこない.対象者は自分に不利に働くと思うことについて敏感に反応する.

板書
病識
自分が病気で治療の必要があることがわかっている.

説明
ここに書かれている「病識」というのは,自分が病気で治療の必要があるという意味.
精神疾患が他の疾患と考え方がやや異なる点は,検査の値が基準を越えているから異常であるとか,身体のある部分に明らかな病変があるわけではないということにある.
病気であることを自覚する根拠がなかなかみつからないため,精神科で診断を受けても,本人が認めようとしない場合もある.また,自分は病気であるという説明を受けて自覚しても,治療が始まってみると本人にとっては不快となる治療も多く,その後の治療に対し了解が得にくい.本人の状態が理解されていないと,医療スタッフとの認識にずれが生じる.

板書
○精神疾患の病識の欠如
客観的な視点が少なく(検査値など),どこをもって疾患とするかということがわかりにくい.
身体のある部分に明らかに病変があるというわけではない.
ゆえに本人が病気であるということを自覚する根拠がなかなかみあたらない

説明
自分はどうなるのか,どんな治療を受けるのかなど,治療が必要な本人自身がわかっていないと,安心して治療を受ける気にはなれない.状況に応じて,適切な立場のスタッフが説明を進めることが重要である.
テキストに書いてあるように簡単なことではないが,根気よく説明をしていくことが求められる.

説明
薬物療法が進んだとはいえ,症状が安定するまでに時間がかかる場合がある.外来での治療が可能な状態と医療者側が判断しても,家族の了承を得るまでに時間を要することもある.そのような中でも月日は経過する.
このことは,対人関係の体験の少なさとどのように関係するだろうか.


指示
学生1名を指名し,テキストP.11の「(4)対人関係の体験の少なさ」の2〜8行目の「ところが〜患者もいる」までを音読する.

板書
○対人関係の体験の少なさの理由
若年で発症することが多い.

その時期は大きなライフイベント(学生から社会人へ,結婚)がある.本来,そこで習得していく対人関係や対処方法を,体験を通して学ぶ機会がない.
機会の少なさから,何か起きたときに対応することに困難が生じる.








パワーポイント「精神症状









































パワーポイント「病識



















パワーポイント「精神疾患の病識の欠如































パワーポイント「対人関係の体験の少なさの理由
第3
段階
15分
日常生活におけるコミュニケーションの形
訴えの背後にある要求を知る








言語的コミュニケーションの手段をなくした患者たち












精神障害者との会話に伴う困難さ
説明
患者の行動はその要求通りのものであるとは限らない.
行動のほかに,どのような気持ちや要求があるのかを理解する必要がある.言葉で表現しきれない部分を行動として表現している場合もある.
その行動がどのような意味をもつのかを考える.
言葉は同じでも,同じことを訴えているとも限らない.


説明
行動で自分の気持ちや要求を訴える患者ばかりではない.長期入院や病状の緩やかな悪化などで,自分の希望や要求を言語的あるいは行動で訴えない場合もある.
このような患者の場合にも,日常生活の中で看護師のほうからきっかけをつくり,どのような思いをもっているのかを理解するように努めることが必要である.

説明
看護学生は精神障害者との関わりに難しさを感じることが少なくない.

発問
今までの授業を聞いていて,精神疾患をもつ患者と関わるときに,どんなことが難しいと考えるか.

板書
○精神障害者のコミュニケーションの特徴
・話の内容がよくわからない.
・話が続かない.
・黙って立ち去ってしまう.
・何を話してよいのかわからない.


説明
学生が精神障害者との関わりの中で感じることは,「話の内容がよくわからない」,「話が続かない」,「何を話してよいのかわからない」ということもある.
どうすればよいかという方法論の前に,対象者の置かれている状況を知ることが必要である.
精神を障害されているということは,何らかの対人関係の障害をもっている.つまり,どのように相手に向き合ったらよいのかわからなかったり,自信がなかったりする.幻覚妄想などの精神症状の著しいときは,現実的な話をすることが難しい.


板書
○患者の状況として考えられること

何らかの対人関係の障害をもっている.
どう話しかけたらよいのかわからない.
自信がない(話したい,接したい気持ちをうまく表せない).
相手の話に合わせて話をするほどの気持ちの余裕がない.
現実的な話に合わせることができない.
抗精神病薬の副作用がつらい.
うまく伝えられなくて嫌われたらどうしよう.

説明
患者とコミュニケーションをとる際に,このような状況が考えられる.これらのことを理解して患者と関わる必要がある.人と接して傷ついた体験をもっている人が多いため,対人関係に自信がないという背景を理解する.



























学生に回答は求めない.精神疾患者を自分はどう考えているのかを意識させる.

パワーポイント「精神障害者のコミュニケーションの特徴



















パワーポイント「患者の状況として考えられること
第4
段階
20分
看護師に求められるコミュニケーションへの援助
































話しやすい環境づくり
−時間や場所−








































話しやすい環境−看護師自身の存在
患者の意思表示を支えること





 
説明
看護師が,患者の訴えを聞くことはとても大切なことである.精神科においては,特に精神症状に左右され,患者自身が相手に自分のことを伝えることが難しいことがある.また,看護師の受け止め方によっても変わってしまうこともある.

板書
○コミュニケーションの基本的姿勢
受容; あるがままの相手を受け入れる態度.批判・評価をしない.
共感; 相手の感情に寄り添い,内面から理解しようとする.
傾聴; 相手が伝えようとしていることを意識して聞こうとする.

説明
コミュニケーションの基本的な姿勢には,「受容」「共感」「傾聴」が挙げられる.
受容とはあるがままの相手を受け入れる態度.患者の訴えに現実性や存在自体がないとしても,実際にそのような体験をしているという事実や不安や恐怖の精神症状に苦しみながら暮らしているという事実を受け入れる.
共感とは相手の感情に寄り添い,相手を内面から理解しようとする態度.精神症状に苦しめられている患者の思いや気持ちを,患者の立場であったら自分はどう感じるのかを考える.
傾聴とは,相手が何を言おうとしているのか,どのような気持ちでいるのかを意識して,相手の話に耳を傾けること.
非言語的コミュニケーションから得られることも意識して話を聞く.

板書
○話しやすい環境づくり
施設的要因; 時間や場所,座るのか立っているのか,部屋,明るさ
人的要因; 話そうとする相手の雰囲気,話術

発問
誰かに大切な話をしたいと思います.板書された中で気にかけることは何ですか

予測回答
相手の雰囲気と話術
時間や場所

返答
大切にしたい話であれば,板書したすべての要素が気にならないといけません.

説明
大切なことを話しやすい環境には,施設的要因と人的要因が整っている.場所は,どのような内容の話を進めるのかを考えてから決める.

指示
○テキストP.14の図2-1「座る位置」を見る.

説明
座り方についても,対象者の状況を見ながら配慮することが必要.近づきすぎれば相手は緊張してしまい,離れすぎてしまえば疎遠な関係となり,話したいことが伝わりにくくなることもある.
図2-1の右上の図は対象者と看護師が正面を向いて座っている.対面は緊張感を増長しやすいとされている位置である.ただ,だからといって面接では用いないということはなく,しっかりと伝えたいことがある場合に用いられる座り方である.机を90度の角度ではさんで座っている左の図は,最もリラックスできるとされる.
 ベンチに座っている右下の図では,表情が直接に見えない状態となるが,これは顔が見えてしまうと緊張してしまうときなどに用いる座り方である.

説明
看護師のもっている影響を意識する.
沈黙をおくこと.余裕のある態度で接することを心がける.
看護学生は患者と話すことで精一杯になりやすいが,話すことよりも,まずは相手(患者)のペースに合わせることを意識すること.
待っているだけではなく,こちらから話しかけてみる.
患者の意思表示を支えるために,とぎれそうな言葉を繰り返したり,促すような言葉かけをしていく.
看護師が受け止めた内容を患者に確かめる方法もある.伝わっていることで患者は安心することもできる.伝わっていなくても,そこからコミュニケーションをとることもできる.

板書
○話しやすい環境を提供するために意識すること
話をする場所
話を聞こうとする人
どのような状況の患者と話をしようとするのかを意識に入れて座る.
沈黙を生かす.
聞くばかりではなく,伝える方法も生かす.








パワーポイント「コミュニケーションの基本的姿勢
























パワーポイント「話しやすい環境づくり




大切な話なら,施設的・人的要因すべてが気になるとされるが,学生はそれを意識できるかどうかを問う.

















































パワーポイント「話しやすい環境を提供するために意識すること
第5
段階
10分
 そばにいること














 居心地のよい無関心
指示
学生1名を指名し,テキストP.15「(7)そばにいること」の第1段落を音読させる

説明
学生は,何とか話をしようと焦る.焦りの原因は対象者との会話の中で生じた沈黙をどうすればよいか,わからないからである.
基本的なあいさつは必要であるが,その後,言葉で何とかコミュニケーションを図ろうとするのではなく,相手の時間に入って一緒に過ごすことが必要である.
患者がここにいてよいと感じる環境を提供することを考える.それは,別に言葉は必要のない環境であることも多い.
「居心地のよい無関心」というのは,看護師が無関心を決め込んでよいということではない.また相手の時間に入るというのは,ぼんやりと過ごすということではない.
対象者は今,どのようなことを考えていて,どのような気持ちなのだろうということを意識して,患者に緊張感を与えず,看護師自身がゆったりとした気持ちで患者からの言葉を待つということができることが,患者の安心感につながる.
そのような安心感のある環境を「共感的環境」と呼ぶ.
難しいことではあるが,精神科の関わりのやりがいはここにあるように思う.
まとめ
5分
□治療的関わり




□本時の学習目標の確認





□予習・復習について
説明
今回は「治療的関わり」ということで,精神科におけるコミュニケーションの基本的な姿勢について考えた.

課題
  1. 以下の2点についてノートにまとめてくる.
1)言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションについて
2)受容,共感,傾聴について

  2. 次回の講義までに,テキスト(P.16〜23)を読んでくる.
  3. 小テストについて(実施する場合)
次回の講義のはじめに,理解度確認のための小テストを実施することを予告する.