ワード等のソフトをお持ちの場合ここをクリックするとこのページを開くことが出来ます。

13回 授業案:第8章 精神医療と看護の歴史的変遷
学習項目
1. 欧米の精神医療の歴史
1)古代ギリシア・ローマ〜中世
2)近世から第二次世界大戦まで
3)近代精神医学の確立とその発展
4)現代−欧米における精神医療の動向−
2. 日本の精神保健医療看護の歴史
1)古代〜中世(奈良〜安土桃山時代)
2)近世(江戸時代)
3)近代(明治・大正・第二次世界大戦まで)
4)現代(昭和・戦後〜平成)
3. 精神医療の現状と問題点
1)精神医療におけるWHO勧告
2)欧米における精神医療の変革と問題
3)発展途上国の精神医療の現状
4)日本の精神医療の現状と課題
今回の目標
●欧米の精神医療の変遷について概観し,それぞれの時代における特色を理解する.
●日本の精神医療の変遷について概観し,それぞれの時代における特色を理解する.
●世界の精神医療の現状と問題点について理解する.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ 32 精神看護学 情緒発達と看護の基本,メディカ出版
資料: 優生保護法について,ルポ・精神病棟
資料映像 「精神医療の歴史と倫理」
パワーポイント
講義の工夫点・留意点
1. 視聴覚教材を活用し,法の歴史的変遷がイメージできるようにする.
2. 精神障害者のもつ様々な問題や,制度など精神医療を取り巻く現状について理解する.
講義の評価視点
○教員への評価視点
 
1. 発問に対する反応,学生の表情.
2. 授業方法(話し方・教育機器の使い方・教材の量など)・授業内容(興味・関心の度合い・量・論理性・構成・有効性・難易度など)の項目別のリストを用い,該当するものをチェックする.
3. 感想,学んだことなどを自由に記入する.

○学生への評価視点
 
1. 授業態度
2. 授業への出席率
3. 学生のレディネス
学生への自己学習課題
○予習
 1.テキスト(P.118〜137)を読んでくる.

○復習
 1.以下についてノートにまとめてくる.
  ・日本の精神障害者に関する法制度の変遷

段階
時間
指 導 内 容
指 導 方 法
留 意 点
導入
5分
□学習目標の提示










精神障害者の歴史的変遷を理解する意味について
資料の配布
 資料:優生保護法について

板書(授業終了まで消さない)
学習目標

 
1. 欧米の精神医療の変遷について概観し,それぞれの時代における特色を理解する.
2. 日本の精神医療の変遷について概観し,それぞれの時代における特色を理解する.
3. 世界の精神医療の現状と問題点について理解する.

説明
精神障害者の理解が歴史の流れの中で変化しており,変遷を知ることが精神障害者の看護の必要性の理解につながる.

優生保護法から,優生手術を中心にまとめ,配布する.
パワーポイント「本時の学習目標
○今回の学習を動機づける.
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
30分
□欧米の精神医療の歴史






古代ギリシア・ローマ〜中世











近代から第二次世界大戦まで












 鎖からの解放








 
モラル・トリートメント(道徳療法)






近代精神医学の確立とその発展
精神疾患の診断・分類



 
心理学的精神医学と精神療法の確立




 
生物学的精神医学という視点





 
精神衛生運動,そして社会精神医学の芽生え






現代―欧米における精神医療の動向―



 
精神医療の見直しと地域精神保健活動の増進







 
公的保険の見直しと問題点
板書
 1.欧米の精神医療の歴史
  1)古代ギリシア・ローマ〜中世
  2)近世から第二次世界大戦まで
  3)近代精神医学の確立とその発展
  4)現代−欧米における精神医療の動向−

説明
○テキストP.118
○精神病に関する2つの考え方
 1.神の呪い,悪魔,悪霊による
        ↓
   残酷な扱い(魔女狩りetc.)
 2.体質・身体的原因による病気
        ↓
       治療
        ヒポクラテス
        ベルギーのゲール

説明
17世紀頃から大規模な精神病者の収容施設(アサイラム)がつくられたが,精神病者より社会秩序を乱す人々の隔離・拘束の目的で使われていた.施設内では自由を奪われた状態であった.
ドイツの精神科医ジーモン(Hermann Simon:1867−1947)は,精神障害者の健康な心身の能力に働きかけて障害された病的部分を排除するという考えに基づき,精神科治療として作業療法を実践し,体系付けを行った.その実践と理論は,1929年の著書『精神病院に於ける積極的療法』として発表され,ジーモンは「作業療法の祖」として世界に知られるようになった.

説明
○テキストP.119
フランスの医師ピネルと看護長ピュサンによる精神病者の処遇の改善
・拘束・鎖の排除
・作業療法を取り入れる
イギリスで精神病者の休息の場としての施設(ヨーク・レトリート)の創設

説明
「道徳療法」とは精神病者を受け入れる社会や病院のスタッフなどの道徳性を問うものであり,ルネサンスの人道主義的精神の影響を受けたものである.
このような人間的処遇を推進したのがピネルやバリュックである.

指示
テキストP.120の写真をみる.

説明
テキストP.120
クレペリン;精神病者の疾病分類,疾患概念の確立
ブロイラー;schizophrenia,統合失調症の命名

説明
フロイト;力動的精神療法の祖
精神疾患の発病や経過には患者の深層心理が重要な役割を果たしている.
○シュヴィング;「精神病者の魂への道」

説明
○テキストP.121
野口英世;神経梅毒の病原体の発見
精神疾患を生物学的な脳の病変としてとらえ,治療しようとする試みへつながる.

説明
○テキストP.121
○ディックス;州立精神病院の創設運動
ビアーズ;『わが魂にあうまで』の出版→世界精神衛生連盟の結成
第二次世界大戦下の精神病者の状況;ナチスの大虐殺,精神病院の処遇の悪化など悲惨なもの.

説明
○テキストP.122
1952年,抗精神病薬クロルプロマジンの開発により,精神症状が改善され,治療が変化した.

指示
テキストP.123の図8-4「ケネディ教書」をみる.

説明
ケネディ教書に基づき,1963年に「地域精神保健センター法」が成立.アメリカでは国家レベルでの精神医療の見直しが始まる.
看護理論家の出現;トラベルビー,ペプロウ

説明
公的保険の見直しによる精神科病床の減少,長期入院患者の脱施設化,入院治療期間の短縮化の結果,さまざまな問題が出現してきた.
・ホームレスになる患者の増加
・医療中断による再発・病状の悪化
・小犯罪→刑務所

パワーポイント「欧米の精神医療の歴史
第2
段階
30分
日本の精神保健医療看護の歴史






古代〜中世(奈良〜安土桃山時代)
憑物と狂気


近世(江戸時代)
私宅監置の始まり



 
精神医学萌芽の時代







近代(明治・大正・第二次世界大戦まで)
精神病院の開設




 
日本の近代化と医療行政の立ち遅れ


 
相馬事件と精神病者監護法

















 
呉秀三の病院改革








 
精神病院の不足と精神病院法




 
 
独自の道を歩んだ精神科看護教育




 
 
看護人・清水耕一,石橋ハヤ



 
優生思想の台頭








 
第二次世界大戦下の困窮







 
大正・昭和時代の身体療法










現代(昭和・戦後〜平成)
私宅監置からの解放



向精神薬の導入








 
精神衛生法の改正と入院偏重の精神医療














 
生活臨床




 
家族会



 
入院患者の人権擁護と社会復帰促進に向けた動き









 
脱施設化への動き








 
精神障害者に対する福祉的施策の展開

板書
 2.日本の精神保健医療看護の歴史
  1)古代〜中世(奈良〜安土桃山時代)
  2)近世(江戸時代)
  3)近代(明治・大正・第二次世界大戦まで)
  4)現代(昭和・戦後〜平成)

説明
○テキストP.123
精神病者の症状を憑物と考え,加持祈祷や滝治療などが行われていた.

説明
○テキストP.124
『御定書百箇条』に精神病者の親族の監督責任が明記されたことにより,籠や座敷牢への拘禁主義が始まる.

説明
乱心は病気という認識が広がり,薬物療法,灸治,滝治療などの民間療法が行われるようになったが,多くの精神病者は監禁されていた.
江戸中期になると,精神疾患を専門にする者が現れた.
漢方医;原因は内臓の不調や障害
蘭方医;原因は毒の脳髄への攻撃や神経の運行異常

説明
○テキストP.125
○精神病院の設立(寺院からの派生)
 公立病院の設立
  京都府癲狂院
  東京府癲狂院

説明
近代化が図られる中,精神衛生の行政は立ち遅れ,監禁・放置が続く.

指示
テキストP.126のプラスα「相馬事件」を読む.
テキストP.126の図8-9「相錦後日話」も参照.

説明
明治12年に始まる旧相馬藩のお家騒動は,精神患者に対する法的不備が明らかになり,世間の関心をひいた事件であった.

説明
1900年に精神病者監護法が制定.不当な監禁の防止が目的であったが,私宅監置は認められたことで合法的な患者の拘禁が増加し,精神病院の建設は進まなかった.
精神病院は警察の管轄下となり,救助人や看護人(おもに男性)によって行われた看護は監視が主となり,援助は最低限のことにとどまった.

指示
テキストP.127のプラスα「呉秀三」を読む.

説明
東京府巣鴨病院の院長に就任した呉秀三は精神疾患の考え方を紹介し,精神医学に影響を与えた.また日本のモラル・トリートメントの理念を目指した.

呉秀三が取り入れた作業療法の構想は加藤普佐次郎に継承された.

治療環境の整備・作業療法・構外での運動の開始.

説明
○テキストP.128
1919(大正8)年,精神病院法の成立
都道府県による公的病院の設立が義務づけられる.

説明
精神看護教育の特殊性
日本の看護教育は女子を対象に行われており,精神病院に従事する看護人は男性が多いため,独自の看護者の養成を行っていた.

説明
○テキストP.129
○『新撰看護学』の出版

説明
1940年国民優生法(精神疾患・知的障害も断種手術の対象)が公布され,精神疾患に対する偏見を助長する一因となった.
1948年優生保護法成立
遺伝性疾患・精神障害・知的障害・ハンセン病も優生手術の対象となる.
資料「優生保護法について」を参照する.

説明
食料難,人員不足により精神障害者の生活は困窮した.
・松沢病院−患者の40%が死亡
・全国の病床数の減少
 25,000床(1940)→4,000床(1945)


説明
1917年 進行麻痺に対するマラリア療法
1922年 持続睡眠療法
1930年代から  インスリンショック療法,カルジアゾール・電気けいれん療法,前頭葉切除術
上記の治療法は身体の侵襲が大きかったが,患者個人より治療の進行が重視された.

指示
テキストP.131の表8-1「身体療法のいろいろ」をみる.

説明
1950(昭和25)年精神衛生法制定により私宅監置は禁止となり,民間の精神病院の設立が続き,患者は病院が永住の地となった.

説明
1950年初頭,本格的な薬物療法開始
(クロルプロマジン,塩酸プロマジン,ハロペリドール)
 生活療法の展開
 病院の開放化
   ↓
しかし社会の受皿が乏しいため,院内寛解・回転ドア現象が生じる.

説明
1964年のライシャワー駐日大使刺傷事件により,翌年,精神衛生法が改正され,他害の恐れのある精神障害者の取締りが強化されるようになった.同時に精神医療における地域中心の理念が掲げられたが,十分な施策は得られず,病院数・病床数は増加した.

指示
テキストP.132のプラスα「クラーク勧告」をみる.

説明
○1968年,クラーク勧告
病院の閉鎖性,劣悪な環境,薬剤の多用,民間病院の営利主義が問題
○しかし,少しずつ開放化へ

説明
生活者の観点を通して提唱された統合失調症者治療の概念.地域での再発防止と予後の改善を目指す働きかけ.

説明
1960年頃より精神障害者の家族による組織活動が始まる→全家連
2007年4月に解散となった.

説明
○テキストP.132
1984年  宇都宮病院事件
1985年  「精神病院入院患者の通信・面会に関するガイドライン」(厚生省)
1987年  精神保健法成立

指示
テキストP.132のプラスα「ハトを飛ばす」を読む.
資料「ルポ・精神病棟」を紹介する.

説明
ノーマライゼーションの理念の推進
入院中心の医療への批判
      ↓
  外来通院者の増加
病床数は減少せず,脱施設化には結びつかない.
1980年代,社会復帰施策の広がり,生活技術訓練(SST)の普及

説明
1983年から「国連障害者の10年」
1993年 心身障害者対策基本法
      ↓
 
 
障害者基本法
精神障害も対象になるが,福祉対策が整っていなかったので福祉の概念を加え,
      ↓
1995年 精神保健福祉法と改正
精神障害者を疾患と障害の両面からとらえる.
「障害者プラン:ノーマライゼーション7カ年戦略」(生活訓練施設,デイケアの数値目標,欠格条項の見直し推進)
1997年  精神保健福祉士法
1999年  精神保健福祉法改正
2002年  新障害者基本計画及び重点施策実施5カ年計画(新障害者プラン)
入院医療主体からの転換の施策が示される.
2005年  障害者自立支援法
精神の健康を守る法制度について


パワーポイント「日本の精神保健医療看護の歴史




パワーポイント「資料映像:精神医療の歴史と倫理」




























相馬事件についての説明をする.


















































































































資料参考文献:大熊一夫.ルポ・精神病棟.朝日新聞社,1981.
第3
段階
20分
□精神医療の現状と問題点






精神医療におけるWHOの勧告










欧米における精神医療の変革と問題











発展途上国の精神医療の現状






日本の精神医療の現状と課題
板書
 3.精神医療の現状と問題点
  1)精神医療におけるWHO勧告
  2)欧米における精神医療の変革と問題
  3)発展途上国の精神医療の現状
  4)日本の精神医療の現状と課題

説明
○テキストP.135
WHOは2001年の世界保健デーのメインテーマを「精神保健」とし,世界各国の精神医療サービスの現状を報告.
・病院中心から地域精神医療への拡充
・精神科治療技術の普及
・脳神経外科学分野での進歩
・患者本人や家族の治療への参加
・発展途上国の現状

説明
○テキストP.135
第二次世界大戦後,病院中心の精神科医療の時代から地域精神医療の時代,利用者参加の時代へと変化.
薬物療法の進歩により多くの精神病者が地域社会で生活できるようになる.
アメリカは1960年代,ドイツ・フランス・イギリスは1970年代から精神科病院の削減が進められるが,地域精神医療サービスの準備が不十分な地域では社会問題が報告されている.
高齢化した長期滞在患者や新たな長期入院患者の問題も出現.

説明
○テキストP.136
少数の恵まれた人しか精神医療を享受できていない.
1.精神科医療資源の不足
2.精神科医療における薬剤の不足,専門家の不足
3.精神科を受診するための医療費の不足

説明
精神衛生法改正以来の「精神医療における人権の確保及び精神障害者の社会復帰対策」以来,一定の向上は図られてきたが,精神医療の状況は依然として表8-2のような課題が指摘されている.

指示
テキストP.137の表8-2「日本の精神医療の課題」をみる.

説明
背景には施設処遇を中心に進められてきた歴史的経緯がある.
近年は処遇中心から地域精神医療への方向変換が図られ,ACT(包括型地域生活支援プログラム)が各地で行われているが,成果はまだ充分ではない.
○問題点
 ・社会的入院
 ・院内寛解
 ・回転ドア現象
今後の課題は上記の課題の解決を図りつつ,ノーマライゼーションの考えを踏まえながら当事者主体の精神医療へ転換を進め,精神医療施策全般の充実,向上を図ることが重要となる.

発問
精神医療における歴史的変遷を学び,どんな感想や思いをもったか.

予想回答
時代の中で多くの犠牲が払われてきたことが分かった.
いろいろな施策が考えられているが,まだ不十分である.
社会的な理解や受け入れ体制をもっと充実させることが必要.
精神医療の体制はまだ整えられる必要がある.
社会的偏見の存在がノーマライゼーションの促進に影響を及ぼしている.

説明
そうですね.いろいろと感じていると思います.ただ医療を受けるにも,多くの問題は社会の歴史と関係が深く,さまざまな問題や課題が山積みであることは事実です.
ノーマライゼーションの重要性を考えていくことは,看護者として必要です.


パワーポイント「精神医療の現状と問題点
まとめ
5分
精神医療と看護における歴史について
欧米・日本の変遷と世界の精神医療の現状と問題点




□本時の学習目標の確認


□予習・復習について
説明
今回,欧米と日本の精神医療の変遷とそれぞれの時代の特色について,および世界の精神医療の現状と問題点について学んできた.
歴史的な変遷を理解し,今後の精神医療と看護のあり方について考えていこう.

課題
  1. 以下についてノートにまとめてくる.
・日本の障害者に関する法制度の変遷

  2. 次回の講義までに,テキスト(P.140〜151)を読んでくる.
  3. 小テストについて(実施する場合)
次回の講義のはじめに,理解度確認のための小テストを実施することを予告する.