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1回 授業案:第1部 セルフマネジメントとは−セルフマネジメントを支える諸理論−
第1章 セルフマネジメントとは
学習項目
1. なぜセルフマネジメントなのか
1)慢性病をもつクライアントの看護の目標
2)「指導型」の教育から「学習援助型」の教育へ
 (1)医学モデル
 (2)公衆衛生モデル
 (3)セルフマネジメントモデル
3)「指導型」と「学習援助型」の考え方
2. セルフマネジメント支援の構成要素
1)知識と技術
2)自信の形成(自己効力)
3)QOL(Quality of Life)
3. セルフマネジメントのための主要概念
1)問題解決
2)意思決定
3)自己効力感
4. セルフマネジメントにおける看護職の主要な責任
5. セルフマネジメントの援助で障害になること
1)専門家の「聴く力」の不足
2)クライアントに相談しないで一方的に問題解決を図ろうとする専門家の態度
3)専門的な知識・技術の不足
4)おまかせ主義で自己主張しない日本のクライアント傾向
6. セルフマネジメントの援助で必要とされる看護職の能力
今回の目標
セルフマネジメントモデル,学習援助型教育とは何かを理解する.
セルフマネジメント支援のために必要な構成要素について理解する.
セルフマネジメントにおいて看護職に求められる能力と責任について理解する.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ25 成人看護学 セルフマネジメント,メディカ出版
資料映像:「セルフマネジメントのための主要概念(自己効力感)」  
パワーポイント  
講義の工夫点・留意点
1. 学生が慢性疾患との共生について考えられるように導入する.
2. セルフマネジメントの有用性について知識を整理して伝える.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 授業への出席,参加態度
2. 定義や概念について知識の定着度を筆記試験で確認する.

○教員への評価視点(自己評価)
1. 学生の反応・表情
2. 授業内容・方法について授業アンケートの実施
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.3〜16)を読んでくる.

○復習
1. テキスト(P.3〜16)を読み返す.
2. 以下の視点について整理する.
1)セルフマネジメントの有用性
2)セルフマネジメントの構成要素
3)セルフマネジメントにおける看護職の責任と能力

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
5分
学習目標の提示
板書(授業終了まで消さない)
学習目標
1.
セルフマネジメントモデル,学習援助型教育とは何かを理解する.
2.
セルフマネジメント支援のために必要な構成要素について理解する.
3.
セルフマネジメントにおいて看護職に求められる能力と責任について理解する.

パワーポイント
学習目標
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
本時の学習を動機づける.
第1
段階
20分
なぜセルフマネジメントなのか
発問
慢性疾患との共生とは,どのようなことでしたか?
数人の学生を指名し,答えてもらう.
例) 慢性疾患の特徴として,完治が望めないこと,急性増悪を繰り返して進行することと,疾患の進行を緩徐にするための生活の必要性があること.
糖尿病のクライアントが,自己管理での血糖コントロールがうまくできない場合,その背景にはどんなことがあるでしょうか.
実習で糖尿病のクライアントに関わった人に答えてもらう.

説明
共生はそのクライアントの生活のしかたや性格,価値観によって左右され,そのため,その人自身の病と付き合う力に大きくかかってくることを説明する.

慢性疾患と共生することについて既習事項を想起させる.また,共生の困難さについて考えさせる.
1.
慢性病をもつクライアントの看護の目標
板書
慢性病をもつクライアントの看護の目標
自分の中の力を信じて希望をもつ
その人の生活と慢性病の療養法の折り合い方をみつける
    ↑
セルフマネジメントモデルでのアプローチが有効

説明
慢性病の場合,病気そのものの完治が望めないため,クライアントは病気と付き合う能力の獲得が必要である.
クライアントは生活の主体者として,自分で判断し自身を管理していくことが必要となる.そこで,自分を信じる力と,自分の生活と療養法との折り合いをみつけることが大切となる.
セルフマネジメントとは,病気がありながら日々の生活の折り合いをつけながら生きていく知恵を,専門家とのパートナーシップの関係を保ちつつ身につけることである.

2.
「指導型」の教育から「学習援助型」の教育へ
板書
「指導型」の教育から「学習援助型」の教育へ
テキストP.4 図1-1「健康教育のパラダイムシフト」

説明
健康教育の考え方は疾病構造や時代の流れと共に変化している.
図1-1「健康教育のパラダイムシフト」をもとに「指導型」教育と「学習援助型」教育を説明する.
現在は当事者の自己決定,自己管理重視の「学習援助型」教育へパラダイムシフトしている.

板書
健康教育の考え方のモデル
1)医学モデル →「指導型」の教育
2)公衆衛生モデル →   〃
3)セルフマネジメントモデル →「学習援助型」の教育
テキストP.5 図1-2「健康教育の考え方の移り変わり」

パワーポイント
健康教育の考え方のモデル
1) 医学モデル
説明
医学モデル
相手の意思に関係なく援助者が助け上げるスタイルである.
相手がどのような力を持っているかに関係なく,患者役割を押しつけ,一方的に援助する傾向にある.
このモデルでは医療者に力があることが前提となる.

テキストP.5 図1-2「健康教育の考え方の移り変わり」を参照しながら説明する.
2) 公衆衛生モデル
説明
公衆衛生モデル
情報を周知して,危険を回避させるスタイルである.
対象者の行動制限につながるため,対象者のQOLを損なう可能性がある.
このモデルでは医療者には,対象者にわかりやすく説明する能力が求められる.

3) セルフマネジメントモデル
説明
セルフマネジメントモデル
対象者がその人の力でがんばれるように,コーチをするスタイルである.
このモデルでは医療者とクライアント双方に力があることが求められる.また,相互の信頼感情が必要である.

3.
「指導型」と「学習援助型」の考え方
板書
「指導型」と「学習援助型」の考え方
指導型:専門家が正しいと判断した指示を与える.
話し上手,説明上手な人が優れた専門家として評価される.
学習援助型:対象者の体験を基に,対象者と一緒に探求する.
聴き上手,尋ね上手な人が優れた専門家として評価される.

説明
指導型
専門家が対象者の健康上の理由から,正しいと判断した指示を一方的に与えるだけで,対象者に意見を求めることはない.
いかに的確に情報を伝えられるかが教育の中心的課題となる.
学習援助型
本人の問題提起を基に,対象者が自分にあった方法をみつけられるよう,一緒に探求していく.
対象者の話を聴くことから始め,その人が自分自身の課題に気づき,解決策をみつけられるように,問題を意識化・表面化するきっかけ作りを行う.いかにうまく話を引き出せるかが援助のポイントとなる.
同じ状況にある人同士の交流をすることにより,情報交換やモデルを見る場となり,相互作用につながる.

パワーポイント
『指導型』と『学習援助型』の考え方
第2
段階
15分
セルフマネジメント支援の構成要素
板書
セルフマネジメント支援
パートナーシップの形成
その人用にあつらえた正確な知識・技術の提供
自信・自己効力をつける援助
QOLについて話し合い,共同目標を設定する

説明
セルフマネジメントとは,専門化主導の押し付け型教育ではない.
クライアントが自分の病気と療養に関するテーラーメイドの知識技術をもち,自分の生活と折り合いをつけながら,症状や徴候に対処していくことをいう.
専門家の役割として,クライアントとのパートナーシップの形成が前提で,クライアントと共にその人の生活を考えたり,クライアントが必要な時に相談ができるために必要だからである.
専門家としてその人用にあつらえた正確な知識と技術の提供と,その人が自分の病気を受け入れて生活していくという自信,自己効力をつける援助をすることも必要である.

パワーポイント
セルフマネジメント支援
1.
知識と技術
板書
セルフマネジメント支援の構成要素(1)
知識と技術
×  一般的な知識と技術
自分の病気を日々マネジメントするために必要とされるテーラーメイドの知識と技術
                ↓
        症状マネジメント
        セルフモニタリング

説明
ある程度の一般的知識と技術の教育は必要である.
基本的には,クライアント自身がセルフマネジメントするために必要な知識技術を,クライアントと話し合いながら絞り込み教えていくことが重要となる.
慢性病をもつクライアントに必要な知識は,多くの場合その人の生活に密着した何らかの行動を決定するためのものである.
クライアントが自分で応用して判断していくことができれば,セルフマネジメントは容易となる.判断が難しければ専門家に相談し,どのように考えていけばいいのか知恵を得ていく.
セルフマネジメントのための知識・技術は,症状(シンプトン)マネジメント,サイン・マネジメント,およびストレス・マネジメントに分けられる.
症状マネジメントは,疼痛,吐き気などの自覚症状をどう判断してどう対処したらいいかという知識・技術である.
セルフモニタリングは,体重・血糖値・血圧などを自分でモニタリングして,その変化を自分で把握し,対処法を決定する指標にしていく.慢性病の場合には,自覚症状が少ないことからも,進行状況のマーカーとなる検査データを把握しておくことが重要となる.

2.
自信の形成(自己効力)
板書
セルフマネジメント支援の構成要素(2)
自信の形成(自己効力)
自分の生活と折り合いをつけてやっていけそうだという自信「やる気」を高め,それを「やれる自信」にまで高めるアプローチ

説明
治癒という状態が望めない慢性病をもつクライアントにとって,医療者の勧める療養法を納得した上で,自分の生活と折り合いをつけてやっていけそうだという自信をつけることが重要となる.
「やる気」を高め,それを「やれる自信」にまで高めるアプローチが必要である.
「やる気」を高めるには,セルフケアの必要性を理解することと,そのためにクライアントに必要な知識をわかりやすく提供し認識に働きかける方法が有効である.
また,「やる気」を高め,それを「やれる自信」にまで変えるには,自己効力を高めることが必要.
自己効力とはやれそうだという根拠のある自信である.自己効力を高める構成要素は1)成功体験,2)代理的経験,3)言語的説得,4)生理的・情意的状態が整うこと,である.

3.
QOL(Quality of Life)
板書
セルフマネジメント支援の構成要素(3)
QOL(Quality of Life)
現在のQOLを大切にする視点と将来のQOLを大切にする視点で,目標としてのクライアントのQOLについて話し合う.

説明
慢性病をもつクライアントは,病気がありながらも自分の現在の生活の質をできる限り損なわないで生活したいと願っている.
医療者は,慢性病をもつクライアントが,たとえ現在の生活の質を多少損ねるようなことがあったとしても,合併症が出現することで将来の生活の質を低下することがないようにと考えている.
クライアントの考えるQOLは現在のQOLであるのに対し,医療者の考えるQOLは将来のQOLであるところに認識のギャップが生じる.
クライアントにとってはどちらも必要なことであり,話し合いをすることで共同目標を設定していく.

第3
段階
15分
セルフマネジメントのための主要概念
板書
セルフマネジメントのための主要概念
1. 問題解決
2. 意思決定
3. 自己効力感

説明
セルフマネジメントを遂行・継続していくために必要な3つの概念を説明する.

1.
問題解決
板書
セルフマネジメントのための主要概念(1)
問題解決
問題を明確にし,解決するための方法を具体的に生活の場に即して考える.

説明
問題は,基本的にクライアント自身のものである.
クライアントが困っていることや,気になっているという問題を明確にするために,医療者はクライアントと対話をする必要がある.
丁寧に話を聴くことで問題を整理し,解決のための方策をクライアントが考えることができるように援助する.

2.
意思決定
板書
セルフマネジメントのための主要概念(2)
意思決定
問題を解決するためにクライアント自身での意思決定が必要

説明
例:食事制限が必要なクライアントが誰かと外食に行くとき,「どの店に行くのか」「何を注文するのか」「摂取カロリーを考えて何を残すか」などという意思決定が必要となる.
自分の病気のことを考えたら,どう意思決定するか,相手と交渉していくかなど,一つひとつ考え,意思決定することが必要となる.
日常生活の中での意思決定がセルフマネジメントには必要である.

3.
自己効力感
板書
セルフマネジメントのための主要概念(3)
自己効力感
必要な療養法を行う能力をもっているという有能感

説明
自分の生活と折り合いをつけながらセルフマネジメントし続けていくのは大変なことである.
しかし,慢性疾患の場合には病気がなくなることはない.どうせ病気をもっているなら,もちながらどう生きていくかに自信をつけてもらうことが必要である.

第4
段階
5分
セルフマネジメントにおける看護職の主要な責任
板書
セルフマネジメントにおける看護職の主要な責任
1. 効果的なセルフケアができるための専門的知識・技術を提供する.
2. セルフケアとQOL改善のための行動変化を遂行し維持するために必要な援助と励ましを供給する.

説明
専門的知識・技術を提供することが専門家としての責任であり,そのために「一般的な知識技術を習得している」「クライアントとの対話を通して,クライアントの置かれている状況を知る」「提供している知識・技術が適した内容かを確認する」ことが必要となる.
セルフケアを一生続けると認識し,行動を維持していくのはクライアントにとって大変なことなので,医療者はセルフケアを行うための援助と励ましを与え続ける責任がある.
医療者は,クライアントが役割行動としての療養行動を行って当たり前という考えから,きちんとやれないのが普通だというとらえ方に意識転換し,援助と励ましを続けることが必要となる.

第5
段階
20分
セルフマネジメントの援助で障害になること
板書
セルフマネジメントの援助で障害になること
1. 専門家の「聴く力」の不足
2. クライアントに相談しないで一方的に問題解決を図ろうとする専門家の態度
3. 専門的な知識・技術の不足
4. おまかせ主義で自己主張しない日本のクライアント傾向

1.
専門家の「聴く力」の不足
説明
テーラーメードの知識・技術を提供するためには,クライアントの話を聴くことがまず必要とされる.
聴く力は聴く態度に左右されていると考えられてはいるが,現実の医療現場で忙しく物理的にもゆとりがない中で,クライアントの話をきちんと聴くことは容易なことではない.
「聴く力」は一定の訓練が必要だが,システム化した取り組みはまだ不足している.

2.
クライアントに相談しないで一方的に問題解決を図ろうとする専門家の態度
説明
専門分化した医療体制の中で,専門家こそが問題を解決する力をもっているとする「医学モデル」のパラダイムが当然と考えられてきた.
価値観の変遷は起こっているものの,多くの医療現場では,まだクライアントを意思決定の中に参加させずに,医療者だけで問題を解決しようとする専門家の態度があり,セルフマネジメント支援を妨げている.

3.
専門的な知識・技術の不足
説明
検査法や治療法は日進月歩の進歩を遂げているため,専門的に取り組んで常に知識を取り入れる努力をしていないと取り残され,クライアントに必要な知識・技術の提供ができない.
クライアント自身がインターネットなどを活用し,常に新しい知識や技術にアクセスすることが可能となり,間違った知識も含めて専門家以上に知っていることもある.

4.
おまかせ主義で自己主張しない日本のクライアント傾向
説明
セルフマネジメントを支援するためには,クライアントと医療者が相互信頼のもとに対話することが必要である.しかし,おまかせスタイルでは自己主張しないで医療者に任せてしまう.
クライアントの生活している個別状況は聴かないとわからない.
一般的な指導であれば個別状況を知らなくてもできるが,テーラーメイドの知識技術の提供には,クライアントからの情報が欠かせない.

第6
段階
5分
セルフマネジメントの援助で必要とされる看護職の能力
板書
セルフマネジメントの援助で必要とされる看護職の能力
1. クライアントの話を傾聴し共感する能力
コミュニケーションスキル カウンセリング技法
2. セルフマネジメントの構成要素である知識・技術・自己効力・QOLの視点を統合してアプローチに組み込んでいく能力
テキストP.15 表1-1「セルフマネジメントを推進する際に必要とされる看護者の能力」

説明
テキストP.15 表1-1「セルフマネジメントを推進する際に必要とされる看護者の能力」を参照し,セルフマネジメントを推進する過程と必要な能力について説明する.

まとめ
5分
授業のまとめ
説明
学習目標に沿って項目を説明する.
学習援助型モデルへの変遷
クライアント自身が症状マネジメント,セルフモニタリングをする必要性
セルフマネジメントのための看護師の役割
パートナーシップを築く,QOLをふまえたテーラーメイドの知識の提供,自己効力へのアプローチ

復習
1. テキスト(P.3〜16)を読み返す.
2. 以下の視点について整理する.
1) セルフマネジメントの有用性
2) セルフマネジメントの構成要素
3) セルフマネジメントにおける看護職の責任と能力

予習
テキストP.17〜26を読んでくること.