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7回 授業案:第7章 社会参加・自己実現をめざした関わり
学習項目
1. 関節リウマチ患者の社会参加・自己実現をめざした関わり
1) 関節リウマチ患者の特徴と援助のあり方
(1) 関節リウマチ患者の特徴
(2) 関節リウマチ患者の社会参加と自己実現
2) 日常生活動作評価表
3) リハビリテーションの実際
(1) 姿勢保持訓練の実際
(2) 筋力強化訓練および移動訓練の実際
(3) 作業療法の実際
(4) 社会資源の活用
(5) 心理適応への援助
(6) 家族への介護指導
2. 脊髄損傷患者の社会参加・自己実現をめざした関わり
1) 脊髄損傷患者の特徴と援助のあり方
(1) 脊髄損傷患者の病態
(2) 社会参加および自己実現
2) 日常生活動作の評価
(1) 日常生活動作の評価法
(2) 日常生活における自己管理動作
3) リハビリテーションの実際
(1) 姿勢保持訓練の実際
(2) 移動・移乗訓練の実際
(3) 作業療法の実際
(4) 社会資源の活用
(5) 心理適応への援助
(6) 家族への介護指導
今回の目標
関節リウマチ患者,脊髄損傷患者について
姿勢保持訓練について説明できる.
移動訓練について説明できる.
作業療法について説明できる.
看護において,どのような社会資源を活用できるかを理解している.
看護において,どのような心理的援助が必要か理解している.
それぞれの家族へ,どのような介護指導をすべきか述べることができる.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ14 健康の回復と看護 運動機能障害,メディカ出版
資料映像:「 脊髄(頸髄)損傷患者の更衣
パワーポイント
講義の工夫点・留意点
1. 病態の理解について既存の学習を想起させ,病態をしっかりと理解した上で,看護援助について考えさせる.
2. 授業中,学生の注意がそれないようにデモンストレーションなどを組み込む.
3. 課題として,活動する地域によって社会資源が異なるので,自分たちの地域で使える資源を調べるようにさせる.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 病態像を理解し患者個々に適した看護が提供できるような発想ができる.

○教員への評価視点(自己評価)
1. 患者個々それぞれ異なる生活状況,損傷レベルにあり,それに適した看護が必要であることが理解できたか.
2. 病態を理解しなければ患者を適切に看護できないことが理解できたか.
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.179〜198)を読んでくる.

○復習
1.

課題
「自分たちの住んでいる地域での社会資源について調べてみよう」

2. 以下の視点について整理する.
1)関節リウマチ
2)脊髄損傷

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
3分
学習目標の提示
板書
学習目標
関節リウマチ患者,脊髄損傷患者について
1. 姿勢保持訓練について説明できる.
2. 移動訓練について説明できる.
3. 作業療法について説明できる.
4. 看護において,どのような社会資源を活用できるかを理解している.
5. 看護において,どのような心理的援助が必要か理解している.
6. それぞれの家族へ,どのような介護指導をすべきか述べることができる.

パワーポイント「学習目標
今回の学習を動機づける.
講義終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
20分
関節リウマチ患者の社会参加・自己実現をめざした関わり
説明
この疾患は,女性に多い疾患で,看護職のように女性の多い職場では,仲間にこの疾患をもちながら働いている人もいるかもしれない.
2002(平成14)年度の厚生労働省の研究班の調査では,リウマチの患者は約70万人.男女比は1:4で,発症年齢30〜50歳に多い.
進行性の疾患で徐々に関節の破壊と変形をきたすので,このような疾患をもった人々を,どのように理解し援助できるかを考える.

1.
関節リウマチ患者の特徴と援助のあり方
板書
関節リウマチ患者の特徴
原因不明の自己免疫疾患
進行性の炎症性疾患
両側性の対称性関節炎
徐々に骨・関節破壊 → 痛みや変形 → 日常生活動作に障害 → 薬物療法,手術療法,リハビリテーション → 社会参加と自己実現への関わり

パワーポイント「関節リウマチ患者の特徴
1) 関節リウマチ患者の特徴
説明
テキストP.55の「12 関節リウマチ」を参照し,疾患について復習する.
リウマチは関節・骨・筋肉などの運動器に痛みを伴う疾患の総称で,変形性関節症や膠原病なども含んでいる.関節リウマチは滑膜組織の異常により発症する関節を中心とした全身疾患である.女性に多く,遺伝的要因も示唆されている.
テキストP.56 図2-20「関節リウマチによる手指の変形」,図2-21「関節リウマチによる足部変形」の写真では,手指の変形や足部の変形がみられる.
朝のこわばりは特徴的で,朝の調子が著しく悪いので午前中の仕事がつらい,天候の変化によって痛みがひどくなるなどの訴えも聞かれる.
微熱が続いたり,疼痛も伴うが,長期的持続的なもので,患者は訴えなくなってしまったり,常に不機嫌になったりということもありうるので,患者の声にはきちんと耳を傾けること,観察を逃さないことも看護には必要なことである.

2) 関節リウマチ患者の社会参加と自己実現
説明
治療によって,痛みが和らいだり,動きが楽になることもあるので,患者には悲観的にならないように支援する.
生活が自立できるように社会的支援が必要であるとともに,周囲でともに過ごす人々の理解も必要であるため,患者とその家族,職場の人々などとともに,疾患について,あるいは社会的支援について理解できるよう説明する.

2.
日常生活動作評価表
板書
日常生活動作評価表の項目
水道の蛇口を開閉する ズボンの着脱
髪をとく/髪の手入れ 靴下の着脱
水を手ですくって顔を洗う 屋内歩行
お釣りをもらう 屋外歩行
シャツの第1ボタンの留め外し 階段を昇る
かぶり物の着脱 階段を降りる
ブラジャー・エプロンの着脱

パワーポイント「日常生活動作評価表の項目
説明
テキストP.181の表7-1「日常生活動作評価表」をみてもわかるように,生活のなかの細かい動作が障害されることがわかる.

ディスカッション
ここでは代表的な動きについて書かれているが,皆さんの生活のなかで朝起きてから寝るまでの間にどのようなことが不自由になるか考えてみよう.

周りの人と話し合う.
第2
段階
22分
3.
リハビリテーションの実際
発問
どのようなことが,毎日の生活のなかで不自由になるか.

学生数名を指し,答えさせる.
説明
そのような不自由さがこれ以上悪くならないよう,新しい不自由さを作らないように,患者に見合った体操あるいは訓練を行う必要が生じる.
また,不自由さがあっても自立できるような工夫について患者とともに考えていくことも必要である.

学生からの回答を聞き,説明を行う.
1) 姿勢保持訓練の実際
説明
テキストP.182の図7-1「膝・足関節のサポーター,頸椎カラー」にあるような装具を使うまでには,発症してから相当の時間がかかる.
できるだけこのような装具を使わなくてよいように,毎日の生活のなかの動作をよく考え,進行の予防に努める.

2) 筋力強化訓練および移動訓練の実際
説明
疼痛があったり,関節の具合が悪いという症状があると,動くことが少なくなり筋力低下を引き起こす可能性もある.
看護者は患者を励ましながら,関節可動域の維持・拡大に努めるとともに筋力を低下させないよう強化運動を行う.
筋力強化運動には等張性運動や等尺性運動があり,これらを組み合わせたリウマチ体操なども考えられているので利用するとよい.
日常生活では,自宅の椅子とテーブル,洋式トイレ,水道の蛇口などが患者に適しているかなどを確認し,使いやすいものなどを指導する.

デモンストレーション
「リハビリ体操」を実演する.

デモンストレーションを行い,学生の理解を深める.

3) 作業療法の実際
説明
リウマチ患者は関節の痛みや変形があるため,作業機能が障害されやすい.特に,握る動作(把持動作)や指先の細やかな動作(巧緻動作),手足を伸ばす動作(到達動作)には障害が表れやすい.
看護者はよく観察し,患者が今できることは何か,これからできるようになることは何かをアセスメントし,生活が自立できるように患者とともに工夫する.
テキストP.184の図7-3「食事・整容・更衣・排泄の自助具」を参照する.

4) 社会資源の活用
説明
社会資源の活用について,人々はどこで相談すればよいのか,どのような資源があるのか知らないものである.
患者に合わせてアドバイスを行い,また相談窓口を紹介することも必要であろう.
詳しくはテキストP.185〜186での,介護保険制度,身体障害者手帳,高額療養費支給制度,年金制度を参照する.

課題
自分たちの住んでいる地域での社会資源について調べてみよう.

ここで,今回の課題を発表する.
5) 心理適応への援助
説明
患者がつらいことは何かをよく話を聴いたうえで理解し,必要な援助を行う.

6) 家族への介護指導
説明
リウマチは徐々に進行し,あらゆる日常生活動作を制限していく.家族も患者とともに病気と闘ってきているため,患者と同様に疲労感を感じている場合もある.
家族が患者の犠牲になってしまうことのないよう,社会福祉制度の利用や,生活上の工夫など家族に対する支援も必要なことである.

第3
段階
20分
脊髄損傷患者の社会参加・自己実現をめざした関わり
1.
脊髄損傷患者の特徴と援助のあり方
1) 脊髄損傷患者の病態
板書
脊髄損傷患者の特徴(1)
1. 脊柱に交通事故やスポーツ事故などにより外力が加えられることにより脊椎を損壊し,脊髄に損傷を受ける.
2.

受傷原因は次のとおり
交通事故(43.7%),
高所からの落下(28.9%),
転倒(12.9%),
打撲・下敷き(5.5%),
スポーツ(5.4%),
その他(3.6%)

3. 損傷部位以下は上位中枢からの支配を失い,脳からの運動命令は届かず運動機能が失われる.また,上位中枢へ感覚情報を送ることもできなくなるため,感覚知覚機能も失われる.

説明
脊 髄がどの部位で損傷されたかで,障害部位が決まる.仙骨以下では排泄,勃起などの機能に支障をきたし,下部胸椎から腰椎では両下肢が麻痺し,車椅子の生活 を強いられる.上部胸椎では腹筋背筋が効かなくなるため体幹の保持が困難となる.さらに頸髄を高い位置で損傷すると手指だけでなく呼吸筋まで麻痺し,人工 呼吸器なしには生きられなくなる(以上,すべて完全型の場合).
最近では,スノーボートやオートバイによる事故などが増加しており,青年層の患者も発生している.

パワーポイント「脊髄損傷患者の特徴(1)
板書
脊髄損傷患者の特徴(2)
4. 受傷後,時間が経過して慢性期に入ると,今度は動かせないはずの筋肉が突然,強張ったり,痙攣を起こすことがある.
5. 感覚,運動だけではなく自律神経系も同時に損なわれる.麻痺野においては代謝が不活発となるため,外傷などは治りにくくなる.
6. 合併症
尿路感染症,褥瘡

説明
感覚・運動だけの障害ではなく自律神経系の障害も生じるため,患者それぞれに対して,どのような障害をもつのか確認の上,援助する.

パワーポイント「脊髄損傷患者の特徴(2)
2) 社会参加および自己実現
説明
脊髄損傷患者は,身体機能の喪失によって,日常生活動作の自立が困難となるばかりではなく,家庭や職場における立場や役割の喪失を経験することが多い.
患者それぞれが受け入れがたい状況にあり,完全な自立が難しい場合が多いが,脊髄損傷にあっても社会参加,自己実現をしている人々もいる.その人に合った支援のしかたを模索する.

2.
日常生活動作の評価
1) 日常生活動作の評価法
説明
日常生活動作を評価することは,脊髄損傷患者が自立した生活を送ることができるように関わる上で重要である.
評価法としてテキストP.189の表7-3「機能的自立度評価法(FIM)の評価尺度・項目・内容」のような機能的自立度評価法がある.

パワーポイント脊髄損傷患者の更衣
2) 日常生活における自己管理動作
説明
脊髄損傷患者は,身体機能以外の障害によっても生活に影響を受ける.
血圧の調整や体温の調整のコントロールのしかたなど,患者に合った方法で習得するよう支援する.

第4
段階
22分
3.
リハビリテーションの実際
1) 姿勢保持訓練の実際
説明
姿勢保持は,あらゆる日常生活動作の基本となる.
まずベッド上でのギャッチアップ座位,車椅子座位,長座位,椅子座位と姿勢保持の訓練が重要になる.損傷部位によって一人で可能なこと,不可能なことがあるのでアセスメントを行って支援する.
また,血圧調整が不安定な場合があり,患者の状態を観察しながら訓練を行う.

2) 移動・移乗訓練の実際
説明
上肢に障害がない場合には,プッシュアップ動作が重要となる.軽度の四肢麻痺患者の場合には,左右に重心を移動しながら回旋し移動する方法もある.
テキストP.190の図7-5「プッシュアップ動作」を参照する.
車椅子の駆動についても,障害の程度によって援助することが異なってくる.電動の車椅子を準備する必要のある患者もいれば,自分で車椅子に移乗,駆動ができる場合もある.
いずれにしても車椅子で移動できるようになると,行動範囲が広くなるので,自立途中でくじけないように援助する必要がある.

3) 作業療法の実際
説明
障害の程度,時期によって作業療法の内容は異なる.患者の状況に合わせて訓練の内容をプログラムする.
排泄に関しては損傷レベルに合わせることと,今後どのような社会復帰を行っていくかなど患者に合わせて方法を選択していく.
褥瘡に関しては,できてからの処置ではなく,あくまでも予防することを心掛ける.褥瘡ができやすい部位を,着替えや入浴時に手鏡を使用して自己点検する習慣を身につけてもらう.褥瘡部位の除圧がどのような方策で最も適しているかを患者とともに工夫する.

4) 社会資源の活用
説明
リウマチで説明したことと同様.

5) 心理適応への援助
説明
脊髄損傷は中途障害であり,これからの人生を障害をもって生きていかなければならない.
障害受容を促すように対応する.

6) 家族への介護指導
説明
看護師は入院中から,患者・家族が退院後の生活を意識できるような関わり方をする.
また,住居の状況,経済状態をアセスメントし適切な福祉資源の活用を勧める.
長期間にわたる自宅療養での介護者の負担を軽減できるように,どのような社会資源を利用でき,どのような保障があるかなどを,メディカルソーシャルワーカーなどとともに相談していく.

まとめ
3分
授業のまとめ
説明
学習目標に沿って項目を説明する.
課題について説明する.

課題
「自分たちの住んでいる地域での社会資源について調べてみよう」

復習
以下の視点について整理する.
1)関節リウマチ
2)脊髄損傷

講義の最終回に当たるため,定期テストのポイントを説明し,学生からの質問があれば受ける