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4回 授業案:第2章 脳神経機能障害をもつ人の看護(2)
3.回復支援と生活の再構築を支援する看護
学習項目
3. 回復支援と生活の再構築を支援する看護
1)意識障害患者への看護
(1) 意識障害が日常生活に及ぼす困難さ
(2) 急性期の意識障害患者への看護
(3) 回復期,慢性期の意識障害患者への看護
2)片麻痺患者の看護
(1) 片麻痺が日常生活に及ぼす困難さ
(2) 移動・移乗動作
(3) 食事動作
(4) 排泄動作
(5) 更衣動作
(6) 入浴動作
(7) 障害をもつことの心理的変化と援助
3)失語症患者の看護
(1) 失語症が日常生活に及ぼす困難さ
(2) 意欲を引き出す対応
(3) 言語以外のコミュニケーション手段の確保
4)失行・失認患者の看護
(1) 失行・失認が日常生活に及ぼす困難さ
(2) 安全の管理と援助
(3) 日常生活への適応
(4) 家族が患者を理解し支援する
5)嚥下障害患者の看護
(1) 嚥下障害が日常生活に及ぼす困難さ
(2) 咀嚼筋への援助
(3) 口腔期の障害と援助
(4) 咽頭期の障害と援助
(5) 食道期の障害と援助
今回の目標
急性期の意識障害患者の生命危機を回避するための看護がわかる.
慢性期の意識障害患者の回復に向けた看護がわかる.
片麻痺患者のADL獲得に向けた看護がわかる.
失行・失認の患者が生活に適応するための看護がわかる.
失語症の患者のコミュニケーション方法の確立に向けた看護がわかる.
嚥下機能障害のある患者の摂食の確立に向けた看護がわかる.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ13 健康の回復と看護 脳神経・感覚機能障害,メディカ出版
CDアドバイザ「疾病の成り立ち 病態生理学」  
資料映像:関節可動域訓練(ROM訓練),食事動作  
パワーポイント  
講義の工夫点・留意点
1. 急性期・回復期ともに看護は,患者に寄り添いながら生活の再構築に焦点をあてて関わることの重要性を強調する.
2. 日常生活が困難となった患者や家族の心理状態を考えられるよう意識化する.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 授業に対する表情・態度・レポート
2. 学生のレディネス
3. 出席率

○教員への評価視点(自己評価)
1. アンケート調査による講義への理解度
2. 演習・レポートによる理解による確認
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.87〜105)を読んでくる.

○復習
1. 講義では大まかなことしか説明できないので,それぞれの機能障害に効果的な介助方法や運動法についてはテキストや資料を読み,復習する.
2. 以下の視点について整理する.
1)急性期・慢性期の意識障害患者への看護の共通点と相違点
2)高次脳機能障害を持つ患者への看護の特徴
3)嚥下障害患者の看護では嚥下障害のアセスメント法と介入法

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
5分
学習目標の提示
板書(授業終了まで消さない)
学習目標
1.
急性期の意識障害患者の生命危機を回避するための看護がわかる.
2.
慢性期の意識障害患者の回復に向けた看護がわかる.
3.
片麻痺患者のADL獲得に向けた看護がわかる.
4.
失行・失認の患者が生活に適応するための看護がわかる.
5.
失語症の患者のコミュニケーション方法の確立に向けた看護がわかる.
6.
嚥下機能障害のある患者の摂食の確立に向けた看護がわかる.

パワーポイント「学習目標
今回の学習を動機づける.
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
20分
回復支援と生活の再構築を支援する看護
1.
意識障害患者への看護
1) 意識障害が日常生活に及ぼす困難さ
板書
意識障害患者への看護
1. 意識とは
1) 覚醒:意識の量
2) 意識内容:意識の質
2. 意識障害の生活への影響
1) 意識の障害:日常生活のすべてが困難
2) 意識内容の障害:自発性の低下,見当識障害,記憶障害
   ↓
日常生活の自立を阻害する.

説明
意識とはなにか
覚醒と意識内容に分けられる.
意識障害は,覚醒障害を伴う場合と意識内容が障害されているものがある.

パワーポイント「意識障害患者への看護
2) 急性期の意識障害患者への看護
板書
急性期意識障害患者への看護
1. 目的
頭蓋内圧亢進を増悪を防ぎ,生命の危機的状況を回避する.
2. 援助の実際
1) 頭蓋内圧亢進を増悪させる因子の除去
2) 生活の再構築のための準備
廃用症候群の予防
合併症予防・事故防止
五感を維持する
心理的支援

説明
急性期の看護は,頭蓋内圧亢進を増悪させず,生命の危機的状態を回避することが大切である.
頭蓋内圧亢進を増悪させる因子の除去
1. 低酸素,二酸化炭素の過多→呼吸を安定した状態に保つこと
1) 気道の確保→体位や気道内の清浄化を含む
2) 酸素の適切な投与
2. 発熱→感染予防
1) 肺炎,尿路感染
2) 皮膚の清浄化と褥瘡予防
生活の再構築のための準備
1. 廃用症候群の予防
パワーポイント「急性期意識障害患者への看護
1) 長期臥床による関節拘縮の予防
ROM訓練
2) 消化吸収能を低下させないよう,可能であれば経管栄養や食事などを早期に開始する.
3) 循環動態を正常に保つ
頭蓋内圧亢進症状が疑われる時期は軽度のベッドアップにより浮腫を予防する.それ以降は臥床による起立性低血圧などを予防するためベッドをあげる.
4) 排尿
留置カテーテルによる膀胱・尿道の機能を保つため,できるだけ早期にカテーテルを抜去する.
5) 排便
便通を整える.急性期には浣腸は頭蓋内圧を亢進させるため禁忌.
2. 合併症・事故の予防
1) 意識障害によるベッドからの転倒・転落を予防する.
2) 感染症の予防に努める.
肺炎
気道を正常に保つとともに誤嚥を予防する.また,誤嚥性の感染を予防するため口腔内を正常に保つ.
尿路感染
カテーテルの早期抜去と陰部の清潔保持
3) 長期臥床による褥瘡の予防
3. 感覚を保つ努力
1) 口腔内の保清
食べる能力・味覚を保持する.
2) 眼の保護
閉眼不全による角膜・結膜の乾燥を予防する.
4. 患者・家族への心理的配慮
脳の障害は突然の発症によることが多く,患者・家族は精神的にも危機的状態におかれることをふまえ,どのようなことが起こっているのかを十分に説明することが重要である.
意識障害を伴うと家族の驚きも大きい.患者の家族内または社会的な役割を尊重し,人格を尊重した言葉がけや態度で看護に当たることが重要.

テキストP.89 図2.3-1「ROM訓練」を参照させる.
資料映像「関節可動域訓練(ROM訓練)
3) 回復期,慢性期の意識障害患者への看護
板書
回復期,慢性期の意識障害患者への看護



説明
頭蓋内圧亢進症状が消失し,生命の危機的状態から脱した時期である.
覚醒を促す援助が重要となる.そのためには積極的・意図的な刺激が必要である.
生活リズムの確立
意識障害では覚醒の障害を伴っているため睡眠と覚醒の区別が不明瞭である.
覚醒の時間を確保し,朝であること夜であることを意識させるように関わり,睡眠と覚醒の1日のリズムを作ること(サーカディアンリズムに沿った生活の確立).
1. 午前中に日の光を浴びる.
2. 食事の時間
3. モーニングケア,イブニングケアなど
端座位保持を目指し移動手段を得る.
端座位は移動手段を獲得するための基本であると同時にすべてのADLの基本となる.
両上肢が自由になることや,足底が地に着いた状態となることによる脳幹網様体への刺激により覚醒を促すことにもつながる.
経口摂取の確立
1. 意識障害でも嚥下反射は存在する.
2. 経口摂取の準備
1) 口腔内の清潔を保つ:味覚を正常に保ち,誤嚥性の肺炎予防
2) 嚥下障害の有無のアセスメントと摂食嚥下のための訓練
3) 摂食行動を誘発させるために空腹感(満腹感)を感じさせる.
4) 食への欲求を刺激する:味覚刺激,嗅覚,視覚への刺激
ここで,後で嚥下障害について説明することを伝える.
排泄の確立
1. 排尿
1) 蓄尿と排尿(十分に膀胱内に尿がたまらなければ尿意を感じないという排尿のメカニズムを確認する)
2) その上で,膀胱留置カテーテルの早期抜去の必要性を確認する.
3) 意識障害により尿意が不確定であるが,排尿時間のパターンを把握し,その人に合った決まった時間にトイレに誘導し排尿を習慣化する.
2. 排便
1) 意識障害患者は自律神経系の働きの低下により便秘に傾きやすいため,パターンを把握し,誘導するとともに,食事や運動などにより消化管の働きを正常に保つことが必要.
清潔の保持
皮膚の循環不全や褥瘡を防ぐ意味でも清潔の保持は重要である.
意識障害患者は昼夜のリズムが整わないことが多く,生活リズムとしての保清の援助も有効である.入浴やシャワーの刺激も関節拘縮を予防し,快刺激を与える上でも重要である.
コミュニケーション手段の確立
意識障害では自発的に痛みや苦痛を訴えることが少ない.全身状態の観察,バイタルサイン,身体の動きなどの患者のサインを見逃さずに援助につなげることが日常生活の確立に役立つ.
また,自分の意志を伝えることが困難である場合には,指のサインや手握,瞬きなどのコミュニケーションの手段を構築することも重要.
言語的コミュニケーションを確立させるために,口腔ケアや顔面マッサージなど口腔周囲のケアも考える必要がある.
患者・家族への対応
意識障害が重度な場合は,家族は患者が再び目覚めないのではという不安をもち,また,言語的コミュニケーションがとれないことでの不安やストレスも大きい.コミュニケーション手段を確立することにより家族の不安を軽減することにつながる.
意識回復のためには家族の呼びかけやケアが重要であることを説明し,理解と協力を得ることが重要である.

第2
段階
20分
(5分)
3.
失語症患者の看護
板書
失語症患者の看護
失語とは→言語障害
1.失語
2.構音障害
テキストP.15 図1.2-5「失語図式」を提示する.

パワーポイント「失語とは
説明
失語とは何かについて説明する
失語症は,大脳皮質の言語領域の障害により起こる.
運動失語と感覚失語がある.
言われている内容の理解はでき,伝えようとしてもしゃべるということができないのが運動失語
言われている内容が理解できず,コミュニケーションをとれないのが感覚失語
どちらもコミュニケーションがとれないが,運動失語の場合は文字盤などによるコミュニケーションが可能である.
失語症患者とのコミュニケーションのポイントについて,テキストP.102 表2.3-1「失語症患者とのコミュニケーションを促進するための10項目」を使用して説明する.

本人のコミュニケーションについてアセスメントし,その人に合ったコミュニケーション手段の確立を目指すことが大切であることを意識づける.
(5分)
4.
失行・失認患者の看護
1)失行・失認が日常生活に及ぼす困難さ
説明
失行とは
何かを行おうとしても,そのやり方がわからなくなる.
→観念失行,着衣失行
失認とは
感覚を受け取ることには障害がないのに,受け取った感覚情報が何を意味するのかわからない状態
→視覚失認,相貌失認,半側空間無視,病態失認など
良く遭遇するのは
1. 半側空間無視
無視している側の認識ができないため,ぶつかったり転倒するなどの危険がある.
対応:食べ物を残す,整容動作も認識している側だけになるため,注意を促し援助を行う.
2. 着衣失行
どこから手を入れたり首を通していいのかわからない.
対応:着やすい服を選び,着衣をおく方向や手を通す順番などを決め,統一した関わりを根気よく続ける.
患者自身が意識している場合は混乱や落ち込みも激しい.その人のペースを尊重して関わることが大切である.

(10分)
5.
嚥下障害患者の看護
1) 嚥下障害が日常生活に及ぼす困難さ
説明
ビデオを見て,嚥下の過程について復習する.
それを元に,口腔期,咽頭期,食道期のそれぞれが障害されることにより栄養摂取が不可能となることを理解させる.
1. 口腔期
舌の運動が悪いことにより食塊を形成できない.摂食前訓練や舌の運動を行う.
2. 咽頭
口蓋垂の偏位などで食物や水分が逆流するので,口蓋弓や咽頭のマッサージを行う.誤嚥を防ぐ体位で摂食を試みる.
3. 食道期
胃からの逆流がある場合には食事量を制限したり,姿勢を整えリラックスできるように援助する.

グラフィカアドバイザ「疾病の成り立ち 病態生理学」の資料映像「嚥下造影:VF」(1分)を視聴する.
第3
段階
40分
(5分)
2.
片麻痺患者の看護
1) 片麻痺が日常生活に及ぼす困難さ
板書
片麻痺が日常生活に及ぼす困難さ
1. 片麻痺は脳血管障害などによる脳損傷により生じる.
2. 脳損傷と反対側の運動機能が障害される.
1) 右麻痺
多くは利き手側の麻痺.失語症を伴うことが多い.
2) 左麻痺
半側空間無視や注意障害,病態失認などの高次脳機能障害を伴う.
良肢位の保持
ウェルニッケ・マン肢位
この予防はその後の生活活動の質の影響する.
テキストP.93 図2.3-6「ウェルニッケ・マン肢位」を提示する.

説明
右麻痺
多くは利き手側の麻痺であり,患者は生活のすべてにおいて多くの困難を伴う.また,失語症を伴うことも多い.
左麻痺
多くの困難を伴うと同時に,左の重度の麻痺が出現している場合は,半側空間無視や注意障害,病態失認などの高次脳機能障害を伴うことも多い.
脳血管障害に寄る麻痺は弛緩性麻痺から痙性麻痺に移行する.
ウェルニッケ・マン肢位での拘縮を防ぐために良肢位を保つような援助が必要である.良肢位については,テキストP.93 図2.3-7「良肢位の角度」を参照させる.

(35分)
2) 移動・移乗動作
デモンストレーション
車いすを用意して実践してみせる.
移動動作:生活空間の拡大,社会性の拡大につながる.
車いす−ベッド
1. 大原則!!
1) 健側に移動対象(車いす・ベッド)がくるように20〜30°の角度につける.
2) しっかり立位をとるように援助し,腰部を回転させ座らせる.
2. 転倒予防のためには
1) 立位をとらせるときにはしっかりと腰部を両手で支える.
2) 麻痺側の下肢を挟むようにして介助者の膝で支える.

ボディメカニクスを再確認できるよう指導する.
3) 食事動作
4) 排泄動作
5) 更衣動作
6) 入浴動作
説明
移動動作を含め,食事,排泄,更衣,入浴などについてはテキストに加えて必要ならばプリントを作成して,介助法について細くし,演習室などで,実践を行わせる.
可能であれば,片麻痺の体験グッズなどを用意して,グループに分かれて一通りの動作を行ってみる.
1. 食事の時間に行って,介助を実践する.
2. 嚥下障害患者の体験として,とろみをつけたものを飲んだり,片手だけで食事を行うことを体験させる.
これらのことを通して,片麻痺患者への看護・介助方法の留意点を学ぶとともに,障害を持つ患者の心理について考えさせる.
また,これらを通して感じたことや片麻痺患者への看護についてレポートを提出させる.

資料映像「食事動作」
まとめ
5分
授業のまとめ
説明
脳の損傷によってあらゆる障害が起きることを確認する.
患者の立場に立ち,安全・安楽を基本とした看護の方法を考えるように訴える.
患者や家族の心理に配慮した援助が求められることを強調する.

課題
以下の視点について整理する.
1. 急性期・慢性期の意識障害患者への看護の共通点と相違点
2. 高次脳機能障害を持つ患者への看護の特徴
3. 嚥下障害患者の看護では嚥下障害のアセスメント法と介入法

予習
テキストP.106〜129を読んでくること.