ワード等のソフトをお持ちの場合ここをクリックするとこのページを開くことが出来ます。

1回 授業案:第1章 栄養代謝機能障害
学習項目
1. 栄養代謝機能とその障害
(1)食物の摂取機能とその障害
(2)食物の移送,消化吸収機能とその障害
(3)代謝機能とその障害
(4)排泄機能とその障害
2. 栄養代謝機能に影響を及ぼす要因
(1)成長発達
(2)生活活動
(3)環 境
(4)精神状態
(5)身体状態
(6)治 療
3. 栄養代謝機能の障害による影響
(1)身体の変化
(2)精神機能の変化
(3)社会活動の変化
4. 栄養代謝機能障害をもつ人に対する看護の基本
(1)栄養状態のアセスメント
(2)栄養管理方法
(3)栄養とチーム医療
今回の目標
栄養代謝機能に影響を及ぼす要因について説明することができる.
栄養代謝機能の障害による影響を,身体,精神機能,社会活動の三側面から説明することができる.
栄養状態をアセスメントする視点を挙げることができる.
栄養状態の管理方法について説明することができる.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ11 健康の回復と看護 栄養代謝機能障害,メディカ出版
資料:パワーポイント配布資料版  
資料映像: 通路としての消化管」「食道・胃・十二指腸」「小腸の構造
パワーポイント  
講義の工夫点・留意点
1. テキストの第2章以降につながる内容につながるように説明する.
2. 栄養代謝機能による障害の影響について,学生の実際の体験を発問し,それを踏まえながら説明を行い,理解が深まるようにする.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 授業の参加態度(発言,表情など)
2. 予習,復習の実施状況

○教員への評価視点(自己評価)
1. 学生からの評価,意見(授業終了時にアンケートを行う)
2. 発問に対する学生の反応
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.1〜15)を読んでくる.

○復習
以下の視点について整理する.
1. 栄養代謝機能の四つのプロセスとその障害
2. 栄養状態のアセスメントの視点
3. 栄養管理の方法

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
5分
学習目標の提示
板書
学習目標
1.
栄養代謝機能に影響を及ぼす要因について説明することができる.
2.
栄養代謝機能の障害による影響を,身体,精神機能,社会活動の三側面から説明することができる.
3.
栄養状態をアセスメントする視点を挙げることができる.
4.
栄養状態の管理方法について説明することができる.

パワーポイント「学習目標
今回の学習の動機付けをする.
講義終了時,学生の理解度を確認する.
第1
段階
15分
栄養代謝機能とその障害
板書
栄養代謝機能とその障害
テキストP.2 図1-1「栄養代謝機能とその障害」を提示する.

説明
栄養代謝機能とは,人体が体外から物質を摂取し,それを消化吸収,合成・分解して,生活力の維持や成長に必要なエネルギーの産生,蓄積,身体の構成成分の合成,そして排泄のための変換などを行う働きである.
食物が摂取されて排泄に至るまでの四つのプロセスについて説明する.

パワーポイント「栄養代謝機能とその障害
1.
食物の摂取機能とその障害
説明
食物の摂取とは,食欲と食行動によって行われる.食欲と食行動は,食欲中枢により行われ,視床下部の外側核にある摂食中枢と腹内側核にある満腹中枢により摂食行動が左右される.
食欲の調節障害の要因として,どのようなものがあるかを説明し,詳しくはテキストP.18〜23の2章1節「食欲の調節障害と看護」で学習することを伝える.
食行動を障害する要因として,どのようなものがあるかを説明し,詳しくはテキストP.24〜31の2章2節「摂食行動の障害と看護」で学習することを伝える.

2.
食物の移送,消化吸収機能とその障害
説明
食物の移送と消化吸収のプロセス
摂取された食物は,咀嚼,嚥下され,食道,胃,十二指腸,小腸,大腸を通過することや,唾液,胃液,胆汁,膵液,腸液などによって消化され,必要な栄養や水分が吸収されることを,唾液,胃液,胆汁などの働きを示しながら説明する.
消化管の器質的・機能的障害の要因,消化液の分泌障害の要因として,どのようなものがあるかを説明し,詳しくはテキストP.21〜23の2章1節-2「食欲の調節障害を起こす疾患と治療,看護」で学習することを伝える.

パワーポイント「通路としての消化管」「食道・胃・十二指腸」「小腸の構造
3.
代謝機能とその障害
説明
代謝とは,消化管から吸収された栄養素が種々の化学反応を繰り返して分解・合成されていく過程である.
代謝機能の障害として,肝機能の低下,糖代謝における膵臓の内分泌機能の障害がある.

4.
排泄機能とその障害
説明
消化吸収されなかった食物残渣は,代謝の過程で生じる不要な物質とともに体外に排泄される.排泄機能とは,排便の調節と排便行動から成り立つ.
排便の調節障害
大腸内の便の通過が何らかの原因によって早くなったり,遅くなったりすると,排便の形態や回数が変化する.
排便行動の障害
意識に関係なく便を排泄してしまったり,反対に,意図的に排便行動を制限したりすることがある.また,腸管の病変や通過障害などによって排便経路を変更せざるを得ない場合は,一時的あるいは永久的に人工肛門が造設される.

第2
段階
30分
栄養代謝機能に影響を及ぼす要因
板書
栄養代謝機能に影響を及ぼす要因
1. 消化器の変化や代謝機能の変化
年齢や体格,活動量,病気や治療
2. 精神状態や価値観,社会・文化的な環境

説明
栄養代謝機能に影響を及ぼす要因として,消化器の変化や代謝機能の変化,精神状態や価値観,社会・文化的な環境がある.

パワーポイント「栄養代謝機能に影響を及ぼす要因
1.
成長発達
説明
人間の成長発達の二つの意味
1. 消化器そのものの発達
2. 成長発達に伴う代謝と必要エネルギーの変化
新 生児は,肝機能が極めて未発達で,糖新生能,血漿タンパク産生能が不十分である.また,膵臓のアミラーゼ分泌の不足や消化器からの脂肪吸収も少ないため, 糖質や牛乳などの吸収が不十分である.一方,高齢者においては,加齢に伴う咀嚼力や味覚の低下,腸管運動能力の低下などによって食事摂取量が低下したり, 消化吸収能力が低下したりする.
基礎代謝量については,テキストP.4のプラスα「基礎代謝量」を参照する.
年齢,性別,体重によって基礎代謝が異なること,特に男性のほうが女性よりも基礎代謝量が高いことを,テキストP.5の表1-1「性・年齢階層別基礎代謝基準値と基礎代謝量」を参照しながら説明する.

2.
生活活動
説明
生活活動は,代謝量を最も大きく変化させる因子であることを述べる.
エネルギーの食事摂取基準は,基礎代謝量に対する身体活動レベルの倍率で示される.
身体活動レベルの3段階については,テキストP.6の表1-2「身体活動レベル別にみた活動内容と活動時間の代表例(15〜69歳)」を参照する.
1日の各種生活活動の時間の把握からの判別については,テキストP.7の表1-3「身体活動の分類例」を参照しながら,日常生活活動の強度の例を説明する.

3.
環 境
説明
環境温度,社会・文化的な環境,経済・科学技術の発展の三つをとりあげ,それぞれについて説明する.
環境温度と基礎代謝量の関係
基礎代謝量は環境温度によっても変化し,暑い地方に住んでいる人よりも,寒い地方に住んでいる人のほうが基礎代謝量は高い.日本人の場合は季節変動がみられ,冬に高く,夏に低くなる.
社会・文化的環境と摂食行動との関係
幼少時の家庭における食生活,例えば,食品の選択や献立,味付け,食べ方などは,その人の食習慣として形成され,その後の健康管理の基盤となる.

発問
家庭での食生活,食べ方などが健康管理の基盤となるという点で,自分自身の体験として印象に残っていることはありますか.

説明
経済・科学技術の発展と食生活との関係
インスタント食品やファーストフードの増加,外食産業の拡大は,食事の簡便化を招いた.これらの結果,若年層の偏食,高血圧や肥満などの生活習慣病,味覚障害などが増えたといわれている.

発問
インスタント食品やファーストフードの増加,偏食という点で自分自身の食生活を振り返ってみましょう.

4.
精神状態
説明
精神状態によって,食欲の変化や消化器症状が出現する.

発問
緊張や不安が食欲や消化器症状に影響を与えるという点で,受験など自分自身の体験として印象に残っていることはありますか.

説明
若い女性の摂食障害,消化性潰瘍,潰瘍性大腸炎,過敏性腸症候群などは心身症であり,看護については,テキストP.18〜23の2章1節「食欲の調節障害と看護」で学習することを伝える.

5.
身体状態
説明
栄養代謝機能は,消化器の機能的な異常だけでなく,消化器以外のさまざまな障害によっても影響を受ける.
1. 呼吸困難に伴う食欲不振
2. 心不全または腎不全に伴う水分・塩分・エネルギーの摂取制限
3. 麻痺に伴う食事動作の障害や嚥下障害
4. 脊髄損傷に伴う排便コントロールの障害
基礎代謝に影響を与える疾患
1. 基礎代謝が亢進する疾患
甲状腺機能亢進症など
2. 基礎代謝が低下する疾患
甲状腺機能低下症,副腎機能低下症,ネフローゼ症候群,糖尿病,低栄養状態など

6.
治 療
説明
薬物療法
医薬品の作用・影響が好ましい場合が薬効,好ましくない場合が副作用である.よくみられる副作用には,食欲不振,口内炎,悪心・嘔吐,腹痛,胃部不快感, 下痢,便秘,肝機能障害などの栄養代謝に関わる症状がある.重大な消化器系の副作用として,抗生物質による偽膜性大腸炎や耐性ブドウ球菌などによる腸炎が あり,重症例ではショックに至ることもある.
放射線療法
放射線療法による栄養代謝機能への影響は,放射線宿酔と消化管の障害である.
手術療法
生体反応に伴う変化,消化器の一部喪失による栄養代謝そのものの変化,ボディイメージの変化,セルフケアの変化について説明する.

第3
段階
15分
栄養代謝機能の障害による影響
板書
栄養代謝機能の障害による影響
1. 身体の変化
2. 精神機能の変化
3. 社会活動の変化

説明
栄養代謝機能は,食物の摂取,移送と消化吸収,代謝,排泄の四つに区分されることを再度述べる.
栄養代謝機能の障害による影響について,身体の変化,精神機能の変化,社会活動の変化を取り上げることを説明する.

パワーポイント「栄養代謝機能の障害による影響
1.
身体の変化
説明
体重の変化
1. 体内の脂肪組織が基準以下に減少している状態をやせ,基準以上に増加している状態を肥満という.詳しくは,テキストP.134〜138の4章3節「代謝異常と看護」の「肥満」,「るいそう」で学習することを伝える.
2. 肥満度の判定に体格指数(BMI)が用いられることが多い.テキストP.8のプラスα「体格指数」を参照しながら,BMIの計算方法について説明し,自分自身のBMIを算出させる.
血液の変化
栄養状態の指標として有用なものは,血清タンパク質と免疫能検査としての総リンパ球数であり,これらの低下は栄養状態の低下を意味する.
そのほかに外観の変化,便や尿の変化,生体防御機能の低下,創傷治癒過程の阻害,身体活動の変化があることをおさえていく.

2.
精神機能の変化
説明
栄養代謝機能の障害が精神状態の変化に与える影響について,病気や入院によるストレス,入院による食事制限をあげて説明する.
栄養代謝機能の障害が精神機能の低下に与える影響について,低血糖による間代性痙攣,肝機能障害による解毒作用の低下による精神機能への影響をあげて説明する.

3.
社会活動の変化
説明
セルフケアの変化として,栄養状態の低下による体力・筋力の低下に伴う日常生活動作の低下や,手術に伴う食事摂取方法あるいは排泄方法の変化を例として説明する.
食事には社会的な意味もあり,食行動や排便の変化が社会活動の制限を招く.

第4
段階
20分
栄養代謝機能障害をもつ人に対する看護の基本
発問
栄養代謝機能の四つのプロセスとは何でしたか.

板書
栄養代謝機能障害をもつ人に対する看護の基本
栄養代謝機能の四つのプロセス
1. 食物の摂取
2. 食物の移送,消化吸収
3. 代謝
4. 排泄
   
アセスメント
どの機能の障害か
障害に至った経緯や原因
   
看護計画
栄養管理方法
チーム医療

説明
看護のプロセス
栄養代謝機能のプロセスのうち,どの機能の障害か,また障害に至った経緯や原因をとらえるために,まず栄養状態のアセスメントを行う.そのアセスメントを踏まえ,看護計画を立てて実践する.
ここでは栄養状態のアセスメント,栄養管理方法,チーム医療について学習することを伝える.

1.
栄養状態のアセスメント
説明
栄養状態をアセスメントする三つの目的
1. 健康状態を維持するうえで,影響があるか否かを判断する.
2. 顕在化あるいは潜在化している疾病と関連するか否かを判断する.
3. 健康状態を最良にするために,予防・維持・改善策のいずれかが必要か考える.
栄養状態を示す指標については,テキストP.12の表1-4「栄養状態を示す指標」を参照する.
栄養療法の適応基準については,テキストP.12の表1-5「栄養療法の適応の基準」を参照する.

2.
栄養管理方法
板書
栄養管理の選択方法
テキストP.13 図1-2「栄養管理の選択方法」を提示する.

説明
栄養管理方法は,大きく経腸栄養法と経静脈栄養法に分かれる.
まず,消化管が安全に使用できるか否かを判断する.経腸栄養は,経口摂取と経管栄養に分けられる.
次に食物の摂取,消化吸収の能力を判断する.これらが十分であれば経口摂取で普通食,やや不足していれば流動食,摂取や消化吸収能力が不足している場合は経管栄養の適応となる.
消化管が安全に使用できない場合は,経静脈栄養法の適応であり,栄養管理期間により末梢静脈栄養法か中心静脈栄養法を選択する.

パワーポイント「栄養管理の選択方法
3.
栄養とチーム医療
板書
NSTの目的・役割とその効果
テキストP.14 表1-6「NSTの目的・役割とその効果」を提示する.

説明
種々の疾患に対する治療に際して,栄養管理を患者個々に適切に実施することをニュートリションサポートといい,栄養サポートを職種の壁を越えて実践するチームを栄養サポートチーム(NST)という.
NSTの目的,役割について説明する.
看護者は,栄養サポートの実践者であるとともに,コーディネーターとしての役割が期待されている.

パワーポイント「NSTの目的・役割とその効果
まとめ
5分
授業のまとめ
説明
学習目標に沿って項目を説明する.
栄養代謝機能が,生命を維持していくうえで重要であることを認識させる.
今回の講義の内容が,次回以降で説明する,栄養代謝機能障害をもつ人に対する看護の各論につながることを認識させる.
課題について説明する.
質問があれば受け付ける.

課題
以下の視点について整理する.
1. 栄養代謝機能の四つのプロセスとその障害
2. 栄養状態のアセスメントの視点
3. 栄養管理の方法

予習
テキストP.17〜31を読んでくること.