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1回 授業案:第1章 微生物・医動物とは
第2章 代表的な感染症と臨床微生物(その1) 1.呼吸器感染症 / 2.結核
学習項目
【第1章 微生物・医動物とは】
1. 身近な微生物
1)常在微生物
2)発酵食品とプロバイオティクス
3)環境と微生物
2. 臨床微生物・医動物
1)臨床微生物・医動物の種類と大きさ,特徴
2)微生物・医動物の呼び方

【第2章 1.呼吸感染症】
インフルエンザウイルス
1)形態・性状
2)抗原変異と流行性
3)感染経路と臨床像
4)診断と治療
5)予防
肺炎球菌
1)形態・性状
2)生息部位と感染成立
3)臨床像
4)診断と治療・予防

1. 呼吸器感染症の種類と病原微生物
1)定義
2)特徴と分類
3)臨床像と病原微生物
2. 呼吸器感染症とワクチン

【第2章 2.結核】
結核菌
1)形態・性状
2)病原性

1. 結核と結核菌
1)空気(飛沫核)感染
2)発病
3)集団感染の危険性
4)BCGワクチン
2. 結核の検査
1)ツベルクリン反応検査
2)新しい検査法:クォンティフェロン®TBゴールド
3)抗酸菌の染色とガフキー号数
4)抗酸菌(結核菌)の培養
5)結核菌と近縁菌
3. 予防と治療
1)予防内服
2)結核の治療
3)多剤耐性結核菌
4)多剤耐性結核の治療
今回の目標
【第1章 微生物・医動物とは】
微生物との共存の大切さを知る.
腸内常在微生物の健康への関わりを知る.
臨床微生物・医動物の種類と大きさ,特徴を知る.

【第2章 1.呼吸感染症】
呼吸器感染症の分類を理解できる.
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる疾患であることを理解できる.
かぜ症候群は,さまざまなウイルス感染症であることを理解できる.
市中感染の代表的な肺炎球菌性肺炎を理解できる.

【第2章 2.結核】
結核を理解できる.
結核菌の特徴(抗酸性など)を理解できる.
結核菌に対する生体の防御機構の特徴を理解できる.
結核の検査を理解できる.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ5 疾病の成り立ち 臨床微生物・医動物,メディカ出版
資料映像「常在微生物」「微生物の大きさ」
パワーポイント
講義の工夫点・留意点
1. 微生物は肉眼的には見えず実感しにくいが,その存在を実感できるようにする.
2. 常在微生物が生体と共存していることを理解する.
3. 臨床微生物と医動物の形態や生物学的性状を知り,ヒトの細胞との相違点を認識する.
4. インフルエンザ・肺炎球菌性肺炎・結核について,病原微生物の形態と性状,病態,診断と治療,予防を概説できるようにする.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 授業に意欲的な態度で臨めたかどうか.
2. 自習ノートを作成したかどうか.
3. 疑問点を適切な方法で解決できたかどうか.
4. 微生物の存在を実感できるようになったかどうか.

○教員への評価視点(自己評価)
1. 十分な準備をして授業に臨めたかどうか.
2. 学生の理解度に応じた授業進行ができたかどうか.
3. 学生の興味を引き出せるような授業進行ができたかどうか.
4. 学生の疑問点の解決方法を助言できるかどうか.
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.1〜26)を読んでくる.

○復習
1. テキスト(P.1〜26)を読みかえす.
2. 以下の視点について整理する.
1)常在細菌の生息部位と主たる微生物の種類
2)腸内常在微生物の生体における働き
3)微生物・医動物の種類と大きさ,構造的な特徴
4)呼吸器感染症の分類
5)インフルエンザウイルス
6)肺炎球菌
7)結核菌
8)非結核性抗酸菌
3. 事例(P.10,13,19,20)について,「考えてみよう」の問いに解答する.

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
5分
学習目標の提示
板書(授業終了まで消さない)
学習目標
【第1章 微生物・医動物とは】
1.
微生物との共存の大切さを知る.
2.
腸内常在微生物の健康への関わりを知る.
3.
臨床微生物・医動物の種類と大きさ,特徴を知る.
【第2章 1.呼吸器感染症】
1.
呼吸器感染症の分類を理解できる.
2.
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる疾患であることを理解できる.
3.
かぜ症候群は,さまざまなウイルス感染症であることを理解できる.
4.
市中感染の代表的な肺炎球菌性肺炎を理解できる.
【第2章 2.結核】
1.
結核を理解できる.
2.
結核菌の特徴(抗酸性など)を理解できる.
3.
結核菌に対する生体の防御機構の特徴を理解できる.
4.
結核の検査を理解できる.

パワーポイント「学習目標
今回の学習を動機づける.
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
15分
身近な微生物
板書
身近な微生物
1. 常在微生物
2. 腸内微生物叢(腸内フローラ)
3. プロバイオティクス

パワーポイント「身近な微生物
1.
常在微生物
説明
常在微生物の生息部位と種類
1. 生息部位は,体外に接している部分である.具体的には,皮膚,鼻腔,口腔,消化管,腟などで,それぞれの場所に特有の菌種が常在する(テキストP.3 図1-3「常在微生物の例」を参照).消化管は体内のように思えるかもしれないが,口から肛門にいたる管構造が体内を貫いているので,体外からの連続面である.
2. 体内には常在微生物は存在しない.外科的処置などで常在微生物が体内に侵入した場合には,起炎菌となるので注意しなければならない.このような感染を「異所性感染」という(テキストP.49参照).
腸内微生物叢(腸内フローラ)の構成(テキストP.2 図1-2「年齢とともに移り変わる腸内フローラ(模式図)」参照)
1. ヒトの腸管はテニスコート約1面分もの表面積をもち,そこには数百兆個もの細菌,重量にして約1kgもの細菌が生息している.これが腸内微生物叢(腸内フローラ)である.
2. 腸内フローラは,出生後に獲得されていくものである.
3. 腸内フローラは,母乳栄養児ではビフィズス菌がほぼ100%である.離乳期より食生活の変化により急激に変動し,成年期にはバクテロイデスのような嫌気性菌が9割以上を占めるようになる.大腸菌は1%程度にすぎない.
腸内微生物叢(腸内フローラ)の働き
1. 腸内フローラには,有益な働きと有害な働きがある.
2. 有益な働きとしては,ビタミンやタンパク質の合成,消化・吸収の補助,病原菌の増殖制御,免疫増強などがある.
3. 有害な働きとしては,発癌物質の生成,毒素の産生,内因性感染などがある.
常在微生物の働きの具体例
1. 新生児には腸内フローラが形成されていない.ビタミンKは腸内フローラにより産生されるので,新生児はビタミンK欠乏による出血症状(新生児メレナ)を起こすことがある,その予防のために,新生児にビタミンKの経口投与が行われている.
2. 腟には何種類かの乳酸桿菌が生息している.乳酸桿菌は乳酸を産生するので,腟内は酸性に保たれ,病原菌の定着が防がれている.これを自浄作用という.

資料映像「常在微生物」
2.
発酵食品とプロバイオティクス
説明
プロバイオティクスとは
健康増進のために摂取される生きた微生物のことである.
たとえば
1. 食品としては,納豆,ヨーグルトなどの発酵食品がある.
2. 医学的にも,抗菌薬の投与時などに,プロバイオティクスの投与によって腸内フローラの保護を図っている.

3.
環境と微生物
説明
微生物は,土壌中,水中,空中など,いたるところに存在.
土壌1g 中に,106〜107 個の細菌,105 程度の真菌や原虫が生息.
働き:地球生態系における物質循環
環境中の無機物を有機物に転換する細菌がある.
(例:N2,CO2,無機物 → アミノ酸,CO2 → 糖)
→種々の生物の栄養源やエネルギー源を提供
動物の排泄物や動植物の死後の有機物を無機物に分解する細菌もある.
応用
微生物による下水処理技術
生ゴミのコンポスト化によるリサイクル技術

第2
段階
20分
臨床微生物・医動物
板書
臨床微生物・医動物
1. 臨床微生物
1)ウイルス
2)細菌
3)真菌(かび)
4)原虫
2. 医動物
1)寄生蠕虫
2)節足動物

パワーポイント「臨床微生物・医動物
1.
臨床微生物・医動物の種類と大きさ,特徴
説明
細胞には,原核細胞と真核細胞があり,真核細胞の方が高等である(テキストP.5 図1-5「真核細胞,原核細胞,ウイルスの基本構造」参照).原核細胞は,核膜がなく,遺伝子DNAは細胞質内にそのまま存在する.真核細胞は,核膜があり,遺伝子DNAは染色体として核内に存在する(図1-5,およびテキストP.6 表1-1「真核生物,原核生物,ウイルスの比較」参照).
臨床微生物・医動物の種類には,板書で示したものがある(テキストP.4 図1-4「臨床微生物・医動物の種類と大きさ」参照).
細菌
1. 原核細胞である.
2. 細菌に特異的な一般構造としては,細胞壁(図1-5)がある.細胞壁はヒトの細胞にはないので,細胞壁を標的にした抗生物質は,細菌に特異的に効く.
3. その他の構造として,菌種によっては,運動性に関わる鞭毛や,付着性に関わる線毛(テキストP.49 図2.5-1「大腸菌の周毛性の鞭毛,線毛」参照),抵抗性に関わる莢膜(テキストP.13 図2.1-2「肺炎球菌の形態(双球菌)」参照)や芽胞(テキストP.196 図5.2-3「芽胞」参照)がある.
4. 細菌の大きさはμm(マイクロメートル),つまり1,000分の1ミリメートルのレベルである.ヒトの肉眼の解像度は,100μm,つまり10分の1ミリメートルのレベルであるので,肉眼で細菌を見ることはできないが,光学顕微鏡では観察が可能である.
5. ほとんどの細菌は数10分ごとに2分裂して増殖するので,1個の細菌でも培地に1昼夜培養すれば菌数は億の単位になり,肉眼でみられる菌の固まりになる.これを「コロニー」と呼ぶ.コロニーは,菌の種類により大きさ,色,形などの性状が異なる.
6. テキストP.2 図1-1「皮膚の常在細菌の培養(ハンドスタンプ法)」では,数種類のコロニーが観察されており,数種類の菌が生息していたことを示している.さらに,何百個ものコロニーがあるので,もともと何百個もの菌が手のひらに存在していたことを示す.
真菌・原虫はともに真核細胞であるが(図1-5),真菌には細胞壁があり原虫にはない.大きさは数10μmのレベルで(図1-4),細菌よりは大きいが,肉眼で観察するのは不可能である.
寄生蠕虫・節足動物は,真核細胞からなる多細胞生物であり,肉眼で観察可能である.
ウイルス
1. 遺伝子としてRNAかDNAのどちらか一方しかもたず,それをカプシドと呼ばれるタンパク質の殻が包んでいるだけの粒子であり(図1-5),生物ではない.ウイルスによっては,カプシドの外側に「エンベロープ」という膜をもつものがある.エンベロープを持つウイルスは一般に抵抗性が弱い.
2. 大きさは,細菌のさらに1,000分の1,ナノメートルのレベルであって(図1-4),電子顕微鏡でなければ観察できない.
3. 自己増殖はできず,宿主細胞の中でのみ増殖できる.増殖は,宿主細胞内の合成機構を借用して遺伝子やカプシドの複製を別々に行い,それを再構成することによって,新たなウイルスを一度に多数つくり出すことによる.
プリオンは感染性のタンパク質であり,生物ではない.

資料映像「微生物の大きさ」
2.
微生物・医動物の呼び方
説明
ウイルス以外の微生物・医動物の学名は,生物分類学上のラテン名(属名と種名の二名法)をイタリック体で記述する(例:Escherichia coli:大腸菌).ウイルス名は,二名法によらずイタリック体と非イタリック体記述がある(Influenza A virus:A型インフルエンザウイルス).

第3
段階
25分
呼吸器感染症
板書
呼吸器感染症の分類と代表的な病原微生物
1. 分類
1) 部位別:気道(上気道,下気道),肺,胸膜,縦隔
2) 原因菌別:細菌性,非細菌性
2. 代表的な病原微生物
1) インフルエンザウイルス
2) 肺炎球菌

インフルエンザウイルス
1) 形態・性状
2) 抗原変異と流行性
3) 感染経路と臨床像
4) 診断と治療
5) 予防
説明
形態と性状(テキストP.11 図2.1-1「A型インフルエンザウイルス(模式図)」参照)
1. RNAウイルスで,エンベロープをもつ.
2. 抗原性によりA型,B型,C型に分類.A型,B型が主に流行する.
A型ウイルスではさらに,エンベロープ上にある2種類の糖タンパク〔ヘモアグルチニン(赤血球凝集素,HA)とノイラミニダーゼ(NA)〕の抗原性による亜型があり,抗原変異を起こしやすい.
現在はA型の2種類(H1N1,H3N2)とB型が世界的に流行.
3. 連続抗原変異は,同一の亜型内の抗原性の変異で,毎年のように起こる.不連続抗原変異とは,別の亜型への変異で,数年から数十年単位で起きる.不連続抗原変異は新型ウイルスの登場を意味し,大流行の原因となる.
2003年以降,東南アジア中心に鳥の間で鳥インフルエンザが流行.さら高病原性鳥インフルエンザウイルスによるヒトの感染者および死亡者も報告された.
2009年4月,メキシコに端を発したブタ由来インフルエンザA/H1N1は世界規模で拡大.
今後,さらに毒性の高い型へ変異したウィルスにより流行が危惧される.
感染経路と臨床像
1. インフルエンザを起こす.
2. 感染経路は飛沫感染.
3. 潜伏期は1〜3日.例年11月下旬〜3月に流行する.
4. 高熱・頭痛・関節痛など,普通感冒に比べて全身症状が強い.
診断と治療
1. 臨床症状による診断,迅速キットによるインフルエンザ抗原の検出が一般的(約15分).ウイルス分離やウイルス抗体価の上昇があれば診断は確実であるが,検査に時間がかかる.
2. 治療は,抗ウイルス薬による.アマンタジンは,A型インフルエンザだけに有効.ザナミビルやオセルタミビルは,A型,B型ともに有効.いずれの抗ウイルス薬も,発症後48時間以内に投与されないと効かない.
なお,2005年11月にはオセルタミビル服用後の異常行動が報告されたが,現時点では因果関係が明らかになっておらず,厚生労働省は添付文書の改訂を指示している.
予防(テキストP.12 表2.1-1「インフルエンザワクチンの接種が推奨される対象」参照)
1. ワクチン接種が推奨されている.抗原型が合わないと効果が劣ることがあるが,社会全体としての流行を抑えることにより,高齢者や幼少児などのハイリスク群の罹患・入院・死亡を減らす.

肺炎球菌
1) 形態・性状
2) 生息部位と感染成立
3) 臨床像
4) 診断と治療・予防
説明
形態と性状(テキストP.13 図2.1-2「肺炎球菌の形態(双球菌)」参照)
1. グラム陽性球菌で,双球菌の配列をとる.
2. 莢膜があるので,好中球の食作用に抵抗し,強い病原作用を発揮する.
生息部位と感染成立
健常人でも鼻腔や咽頭に常在している場合があるが通常は発病しない.
気道粘膜のバリア損傷など,免疫能が低下すると,発病することがある.
病原性
1. 肺炎,中耳炎,副鼻腔炎などを起こす.
2. 肺炎は大葉性肺炎の形をとる.成人の市中肺炎の約3分の1を占める.
診断
1. 病巣由来の検体からの肺炎球菌の分離同定による.
2. その他,肺炎球菌の尿中抗原検出キットが開発された.
治療
1. ペニシリンが第一選択であるが,ペニシリン耐性肺炎球菌が増加している.
予防
1. 肺炎球菌ワクチンがあり,日本でも普及しつつある.

1.
呼吸器感染症の種類と病原微生物
1) 定義
2) 特徴と分類
3) 臨床像と病原微生物
説明
呼吸器感染症とは,微生物による呼吸器系の炎症.
分類(テキストP.15 表2.1-2「呼吸器感染症の分類」参照)
1. 感染部位(上気道と下気道,肺,胸膜,縦隔)
2. 病因(細菌性,非細菌性)
鼻と喉は,呼吸に伴って最も微生物が侵入しやすい場所であるので,感染症のなかでも呼吸器感染症が最も多い.
上気道炎の臨床像と病原微生物
1. 普通感冒(鼻かぜ)が多く,大抵はウイルスによる.
(テキストP.16 表2.1-3「かぜ症状を起こす主な病原ウイルス」参照)
2. その他,よく知られている疾患として,
A群溶血性レンサ球菌による,扁桃炎
コクサッキーウイルスによる,ヘルパンギーナ
アデノウイルスによる,咽頭結膜熱(プール熱)
パラインフルエンザウイルスによる,クループ症候群
などがある.
下気道炎の臨床像と病原微生物
1. 急性か慢性か,基礎疾患があるかないかにより,病因が異なる.
(テキストP.16 図2.1-3「気管支炎を起こす主な病原微生物」,
P.17 図2.1-4「肺炎を起こす主な病原微生物」参照)
基礎疾患がある場合は,日和見感染(テキストp132〜133参照)を起こす微生物であることが多い(テキストP.133 表3.6-2「日和見感染を起こす主な臨床微生物・医動物」参照).
2. 細菌性肺炎では,炎症によって肺胞に浸出液がたまり,レントゲンでみると,その肺葉全体に均質性の肺炎像が認められる「大葉性肺炎」の形をとることが多い.これが,定型的な肺炎像である.強い咳と黄色痰,高熱を伴う.
代表菌種は,肺炎球菌,インフルエンザ菌など.
3. マイコプラズマ,クラミジア(クラミドフィラ),ウイルスなどによる肺炎では,肺胞内よりも間質部分の炎症が主体で,レントゲンでは,気管支から引き続いて広がる網目状にみえる「間質性肺炎」をとるので,非定型肺炎(異型肺炎)と呼ばれる.発熱や激しい咳の割に,痰は少ない.

2.
呼吸器感染症とワクチン
説明
呼吸器感染症に関連したワクチンの種類
(テキストP.187 図5.1-1「主なわが国の現行ワクチン(2009年4月1日現在)」参照)
BCG,ジフテリア,百日咳,肺炎球菌,インフルエンザなどがある.
高齢者で重症化しやすいインフルエンザと肺炎球菌性肺炎の予防策として,インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンが注目されている.
インフルエンザワクチンは,高齢者では定期接種として扱われているので,公費で接種できる.
肺炎球菌ワクチンは,任意接種である.

第4
段階
20分
結核
板書
結核の起炎菌
1.結核菌
2.非結核性抗酸菌

パワーポイント「結核の起炎菌
結核菌
1) 形態・性状
2) 病原性
3) 感染経路
4) 集団感染
5) 診断
6) 治療
7) 予防
説明
形態と性状(テキストP.20 図2.2-2「結核菌」参照)
1. グラム陽性桿菌であるが,細胞壁に脂質成分が多いため,難染性.
2. 酸に抵抗性を示す(抗酸性),抗酸菌の代表格である.
抗酸性染色であるチール・ネールゼン染色では,抗酸菌だけが赤く染まるので,他の菌と識別できる(テキストP.209 図6.1-5「抗酸菌染色(チール・ネールゼン法)」参照).
3. 分裂速度が遅く,コロニー形成までに3週間前後を要する.
4. 乾燥・熱・消毒に対する抵抗性が強く,喀痰中では特に抵抗性を示す.
病原性
1. 結核を起こす.肺結核が多い.その他,腎結核,脊椎カリエスなど.
2. 結核菌が肺胞内に入ると,肺胞マクロファージ内で増殖し,局所リンパ節でも増殖する.ここで,細胞性免疫(テキストP.180 図4.2-3「病原体に対する感染防御免疫反応」参照)が成立する.このような肺の初発原発巣とリンパ節病巣をあわせて「初感染巣」という.大部分の人は初感染巣でとまるが,宿主の細胞性免疫能の低下がある場合には慢性肺結核に進展することがある.
感染経路
空気感染 (飛沫核感染).
集団感染の危険性
若年者が集団生活している場で結核患者が発生したり,同一施設から短期間に2人以上の患者が発生した場合に,集団感染が起こりやすい.
診断
1. 喀痰中の抗酸菌を抗酸染色により検出する.喀痰塗沫標本陽性者は,排菌している,つまり感染源となるので,この検査は重要.排菌の程度は,以前はガフキー号数で示したが,現在では(−)〜(3+)までの5段階評価で行う(テキストP.24 表2.2-1「結核菌検査指針における表記とガフキー号数(2007年)」参照).
2. 培養による結核菌の検出は,従来の固形培地では,分裂速度が遅いことから数週間を要する.迅速検出を目的に,液体培地の導入や遺伝子検査を用いた検出法が開発されている.
3. ツベルクリン反応は,結核菌の培養ろ液から精製した結核菌の成分に対する反応をみるものである.結核菌に対する細胞性免疫が成立したヒトでは,陽性になる(ツベルクリン反応の陽転).
BCG接種者は原則としてツベルクリン反応を行っても結核菌に感染したか否かは判定できない.
新しい検査法として,クォンティフェロン検査
®が2006年に保険収蔵され,ツベルクリン反応に替わるものとして臨床利用されている.
4. 胸部X線検査
治療
1. 長期間治療しないと完治しない.治療中に耐性化するため,2種類以上の薬剤を使う.代表的な抗結核薬としては,イソニアジド,リファンピシン,ピラジナミド,ストレプトマイシン,エタンブトールがある(テキストP.25 表2.2-2「代表的な抗結核薬」参照).
2. 最近,既存の抗結核薬がほとんど効かない「超多剤耐性結核菌」も出現し,問題になっている.
予防
1. BCGワクチンと,抗結核薬の予防内服がある.
2. BCGワクチンは,ヒト結核菌と共通抗原をもつウシ型結核菌から作成した生ワクチンである.幼少児に多い結核性髄膜炎や粟粒結核に対する発症予防効果には異論はないが,肺結核の発症予防効果については定かではない.そのため従来複数回の接種が行われてきたが,再接種は廃止となり,生後3カ月から6カ月までの間に1回接種することとなった.
3. 予防内服は,結核菌に感染して発病の危険が高い人(具体的には,結核を発症した患者に接触しツベルクリン反応が強陽性の人)の発病を予防する唯一の方法である.

非結核性抗酸菌
説明
結核菌以外の培養可能な抗酸菌の総称.
一般に,結核菌よりは毒力が弱く,日和見感染的な性格が強い.
Mycobacterium avium complexによる感染症(肺MAC症と呼ばれる)が代表的で,症状は肺結核に似る.
らい菌も抗酸菌であるが,培養不可能である.
らい菌は,ハンセン病を起こす.

まとめ
5分
授業のまとめ
説明
学習目標に沿って項目を説明する.
1. 常在微生物は身体にたくさん存在しているということ
2. 臨床微生物と医動物について,分類と生物学的性状のまとめ(テキストP.6 表1-1「真核生物,原核生物,ウイルスの比較」参照)
3. 代表的な呼吸器感染症の原因微生物として
1) インフルエンザウイルス(抗原変異,臨床像,診断,治療,予防)
2) 肺炎球菌(形態,臨床像,薬剤耐性)
4. 結核の原因として
1) 結核菌(形態と抗酸性,臨床経過と病態,検査,予防)

復習
テキスト(P.1〜26)を読みかえす.
以下の視点について整理する.
1) 常在細菌の生息部位と主たる微生物の種類
2) 腸内常在微生物の生体における働き
3) 微生物・医動物の種類と大きさ,構造的な特徴
4) 呼吸器感染症の分類
5) インフルエンザウイルス
6) 肺炎球菌
7) 結核菌
8) 非結核性抗酸菌
事例(P.10,13,19,20)について,「考えてみよう」の問いに解答する.

予習
テキスト(P.27〜56)を読んでくること.