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1回 授業案:第1章 医薬品総論
学習項目
1. 医薬品
1)医薬品とは
2)医薬品の分類
 (1)毒薬と劇薬
 (2)麻薬
 (3)向精神薬
 (4)覚せい剤・覚せい剤原料
 (5)安全管理の面からの分類
3)医薬品の名前
4)医薬品に関連する法律
5)開発から臨床で使用されるまで
2. 医薬品の作用原理とその影響
1)薬理作用の原理
2)薬の体内の動き(薬物動態)
 (1)吸収
 (2)分布
 (3)代謝
 (4)排泄
3)体内の動きに影響を与えるもの
 (1)腎機能
 (2)肝機能
 (3)食事
4)好ましくない副作用(薬物有害反応)
5)相互作用
3. 医薬品の適正な使用に向けて
1)医薬品使用時に注意しなければならないこと
 (1)依存
 (2)耐性
 (3)中毒と対処
 (4)催奇形性
 (5)授乳時の移行
 (6)小児への投与
 (7)高齢者への投与
2)医薬品添付文書の読み方
 (1)医薬品添付文書とは
 (2)医薬品添付文書のどこに注目するか
3)処方から投与まで
 (1)処方
 (2)調剤
 (3)投与
 (4)患者への説明
 (5)患者安全管理
今回の目標
医薬品の分類と関連する法律を理解する.
医薬品が作用する原理と作用に影響を与える要因を理解する.
医薬品を適性かつ安全に使用するための注意事項を理解する.
使用する教材・準備物
テキスト: ナーシング・グラフィカ4 疾病の成り立ち 臨床薬理学,メディカ出版
資料: 入手できる医薬品(内服薬,外用薬,注射薬),服薬ゼリー,医薬品の添付文書 
資料映像: 「ナトリウムポンプ」「小腸の構造」「薬剤が処方されて患者に投与されるまで」「調剤薬局のしくみ」
パワーポイント  
講義の工夫点・留意点
1. 実際に医薬品(入手できないものは,実物の写真を表示),医薬品の添付文書,服薬ゼリーやオブラート等を見ることで,臨床現場での実際とテキストとを結びつける.
2. 薬物動態と体内への影響について解剖生理と結びつけ把握できるようにする(P.8 図1-4「薬の投与経路と薬物動態」を利用).
3. 薬物使用時に注意しなければならない副作用と患者安全管理について,小児,高齢者等の対象者の特性と結びつけ把握できるようにする.
講義の評価視点
○学生への評価視点
1. 授業態度(出欠席含む).
2. テストによる評価.

○教員への評価視点(自己評価)
1. 学生は興味深く授業を聴講していたか(私語,居眠りはなかったか).
2. テストは適切な内容だったか(国家試験内容や臨床現場で必要とされる知識か).
学生への自己学習課題
○予習
テキスト(P.1〜22)を読んでくる.

○復習
1. 薬の体内の動き(薬物動態)について,薬物投与経路と薬物吸収経路はどのようになっているか.
2. 薬物使用時の注意について以下の視点について整理する.
1) 依存,中毒,耐性(特に依存と中毒の違いについて).
2) 小児,高齢者への投与時に注意することと,看護で工夫が必要とされる内容にはどのようなものがあるか.

段階
時間
指導内容
指導方法
留意点
導入
5分
学習目標の提示
板書(授業終了まで消さない)
学習目標
1.
医薬品の分類と関連する法律を理解する.
2.
医薬品が作用する原理と作用に影響を与える要因を理解する.
3.
医薬品を適性かつ安全に使用するための注意事項を理解する.

パワーポイント「学習目標
今回の学習を動機づける.
講義終了まで残し,終了時,学習の理解度を確認する.
第1
段階
20分
医薬品
板書
医薬品
1.医薬品の分類
2.医薬品の名前
3.医薬品に関する法律
テキストP.3 図1-1「適用方法による医薬品の分類」を提示する.

説明
P.2にある「Keyword」「Key Sentence」を読む.

パワーポイント「医薬品
1.
医薬品とは
説明
医薬品は,「薬事法」第2条において以下のように定められている.
1. 日本薬局法に収められている物
2. 人又は動物の疾病診断,治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品を除く)
3. 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって,機械器具等でないもの(医薬部外品及び化粧品を除く)

2.
医薬品の分類
1) 毒薬と劇薬
2) 麻薬
3) 向精神薬
4) 覚せい剤・覚せい剤原料
5) 安全管理の面からの分類
板書
医薬品の分類
1. 法規による分類
劇薬,毒薬,麻薬,向精神薬など
2. 薬効による分類
日本商品分類番号
3. 治療目的による分類
高血圧治療薬,糖尿病治療薬など
4. 化学構造による分類
ベンゾジアゼピン,フェノチアジンなど
5. 剤形による分類
錠剤,カプセル剤,注射剤など
6. 使用目的による分類
治療薬,診断薬,予防薬など
7. 適用方法による分類
内服薬,外用薬,注射薬など

説明
法規による分類として,「麻薬及び向精神薬取締法」「覚せい剤取締法」がある,麻薬,精神薬の取り扱い,管理は厳重に行われる.覚せい剤そのものは臨床ではほとんど使用されないが,覚せい剤原料が用いられている薬剤(パーキンソン病治療薬,気管支拡張薬)もある.また,臨床現場では,覚せい剤の依存症や中毒の治療・対応をする場合もある.
適用方法による分類は,テキストP.3 図1-1「適用方法による医薬品の分類」に示すように大きく3つに分類される.剤形に関しても図1-1に記されているように,錠剤,注射薬などに分類される.
毒薬と劇薬には違いがあり,テキストP.4 図1-2「毒薬と劇薬の表示」に区別されている,毒薬は施錠保管が義務づけられている.

パワーポイント「医薬品の分類
3.
医薬品の名前
板書
医薬品の名前
1.化学名(chemical name)
2.一般名(generic name)
3.商品名(brand name)

説明
医薬品の名前には,化学名,一般名,商品名の3種類がある.このうち臨床においてよく使用されるのは,一般名と商品名である.商品名については,安全面から,商標+剤形+規格の三要素を基本としている.
医薬品の名前(3種類)については,P.4にある例(アスピリン)を参照する.
医薬品名称の類似性は,投与エラーの重要な誘引である.投薬に際して,投与前の確認や,スタッフ間の類似している医薬品への認識などのエラー対策が必要である.

パワーポイント「医薬品の名前
4.
医薬品に関連する法律
説明
医薬品が関連する法律には,薬事法,麻薬及び向精神薬取締法,覚せい剤取締り法,医師法,薬剤師法,医療法,健康保険法など多くのものがある.
医薬品の開発と製造においても,テキストP.5 表1-1「医薬品に関連するガイドライン」にあるように,厳しい実施基準が定められている.

5.
開発から臨床で使用されるまで
説明
医薬品の開発は,候補化合物の探索→非臨床試験(動物実験)→臨床試験の順に行われる.
臨床試験は,臨床薬理試験→探索試験→検証試験の順に行われる.

第2
段階
30分
医薬品の作用原理とその影響
板書
医薬品の作用原理とその影響
1. 薬の体内の動き(薬物動態),体内の動きに影響を与えるものについて把握する.
2. 好ましくない副作用(薬物有害反応)の症状を把握する.
テキストP.6 図1-3「受容体(レセプター)と薬物の結合」,P.8 図1-4「薬の投与経路と薬物動態」,P.9 図1-5「投与経路別血中濃度の推移」を提示する.

パワーポイント「医薬品の作用原理とその影響
1.
薬理作用の原理
説明
ほとんどの医薬品は,細胞膜に局在する特異タンパク質分子(受容体:receptor)に作用して,さまざまな生理反応を引き起こす.
テキストP.6 図1-3を参照する.
受容体に結合して生理反応を引き起こす医薬品は,作用薬(agonist)あるいは刺激薬(stimulant)と呼ばれる.
受容体に結合しても生理反応を引き起こさない医薬品は,拮抗薬(antagonist)または遮断薬(blocker)と呼ばれる.

2.
薬の体内の動き(薬物動態)
1)吸収
2)分布
3)代謝
4)排泄
板書
薬の投与経路と薬物動態
テキストP.8 図1-4「薬の投与経路と薬物動態」を提示する.

説明
吸収
1. 経口投与
おもな吸収部位は大きな面積をもつ小腸である.小腸で吸収された医薬品は門脈系に入り,肝臓を通過した後,心臓から全身に送り出される.
2. その他投与方法
静脈内,口腔内(舌下),直腸内,鼻腔内,筋肉内,皮下などからの投与方法がある.インスリン等の一部医薬品では,胃酸や小腸壁に存在する酵素により分解されるため,経口以外の投与方法が必要となる.
3. 新しい投与
新しい投与方法として皮膚から吸収させる剤形がある.例としては,血管拡張薬ニトログリセリン,禁煙補助薬ニコチン等がある.
分布
体内循環に吸収された医薬品は,血漿アルブミンとゆるく結合するもの(結合型)と結合しないもの(遊離型)として共存する.結合型の医薬品は血管内にとどまり,薬理作用を発揮できない.
血流中の医薬品は,全身に拡散し,標的臓器の受容体と結合して薬理作用を発揮する.しかし,生体防御機能として,中枢神経系の移行は,血液脳関門(BBB;blood brain barrier)と呼ばれる障壁によって制限を受ける.
テキストP.9 図1-5「投与経路別血中濃度の推移」を参照する.
代謝
医薬品は,腎臓から排泄されやすいように,酵素の働きによって水に溶けやすくなるように変化(代謝)する.また,多くの医薬品は代謝によって薬理活性が減少する.
プロドラッグと呼ばれるものは,体内で代謝されて初めて薬理作用を発揮する本体となる.
医薬品の代謝において最も重要な臓器は肝臓であり,最も重要な酵素は,肝ミオクロームに存在する混合機能オキシダーゼと呼ばれる酵素群である.
排泄
医薬品の主な排泄臓器は腎臓である.水に溶けやすい物質に代謝された医薬品は,糸球体ろ過により尿中に排泄される.
一部の医薬品は,胆汁に混じって十二腸内に分泌され,便として排泄される.

パワーポイント「薬の投与経路と薬物動態(再掲)
資料映像「小腸の構造」
3.
体内の動きに影響を与えるもの
1)腎機能
2)肝機能
3)食事
説明
医薬品の体内での動きに大きな影響を与えるものとして,代謝と排泄臓器の機能があげられる.
腎機能
腎機能の低下は,多くの薬の体外への排泄を遅らせる.投与量と投与間隔の補正は,クレアチニンクリアランス(Ccr)値に基づいて行われる場合が多い.
肝機能
肝機能の低下は,代謝酵素の活性に影響を与える.この結果,代謝速度が低下し,体外への排泄が遅延する.
食事
日本では医薬品を食後に服用することが多い.この理由は,1日3回の食事に合わせて服用することで医薬品の飲み忘れを防止することと,医薬品の消化管(特に,胃)への傷害を軽減するためである.

4.
好ましくない副作用(薬物有害反応)
説明
医薬品には,使用目的の薬理作用(主作用)がある.それ以外の作用は,全て副作用ということになる.副作用のうち好ましくないものは薬物有害反応(ADR;adverse drug reaction)と呼ばれる.
薬物有害反応の多くは,用量関連性のものと非用量関連性のものに分けられる.
1. 用量関連性
用量関連性の薬物有害反応は予測可能であり,期待される薬理作用が過剰に発現するか(例:インスリン投与による低血糖症状),その医薬品がもつ副作用(例:アスピリン投与時の出血傾向)として現れる.また,併用している医薬品間の相互作用により,血中濃度が上昇し,過量の医薬品を投与したときと同じ状態になり,薬物有害反応が発現することがある.
2. 非用量関連性
非用量関連性の薬物有害反応は比較的稀であり,予測が困難である.代表的なものに医薬品に対する過敏反応があり,これは免疫反応が関与している.過敏反応のうちアナフィラキシーショックは,最も重篤なもので,死亡する可能性が高い.特異体質反応は,投与された側の遺伝的要因に起因し,通常では発生の可能性が低いため,予測困難である.

5.
相互作用
説明
相互作用には,薬動学的作用(体内での動きが関連)と薬力学的作用(作用機序が関連)がある.相互作用は,医薬品同士だけでなく,医薬品と食品,医薬品とハーブの間でも起こることが知られている.

第3
段階
25分
医薬品の適正な使用に向けて
板書
医薬品の適正な使用に向けて
1. 依存・耐性・中毒等,薬物が身体に及ぼす影響
2. 医薬品添付文章の読み方と留意点
3. 処方から投与までの流れと患者安全管理のあり方
テキストP.14 図1-7「医薬品の添付文書の情報内容」,P.15 図1-8「製薬会社からの『緊急安全性情報』」を提示する.

パワーポイント「医薬品の適正な使用に向けて
ゼリー状のオブラートやオブラート等の写真を提示する.
1.
医薬品使用時に注意しなければならないこと
1)依存
2)耐性
3)中毒と対処
4)催奇形性
5)授乳時の移行
6)小児への投与
7)高齢者への投与
板書
医薬品使用時の注意点
1.依存
2.耐性
3.中毒と対処
4.催奇形性
5.授乳時の移行
6.小児への投与
7.高齢者への投与

説明
依存
薬物依存は,「その医薬品を摂取せずにはいられない」あるいは「その医薬品の摂取がやめられない」という状態である.この依存には,精神的依存と身体的依存の2タイプがある.
ある医薬品の摂取を中断したときに認められる病的症状・徴候を退薬症状(離脱症状)と呼んでいる.これは,身体依存性に基づくもの以外に医薬品のリバウンド現象や投与前から存在した病的徴候である.
耐性
薬物を長期間にわたって使用していると薬理効果が弱まり,同じ効果を得るためには投与量を増加させる必要がある.この状態を,薬物耐性が形成されたという.
中毒と対処
中毒は,薬物を過量に服用(投与)したり,投与方法を誤った場合に起こる.医療用医薬品では,抗不安薬,睡眠・鎮静剤,鎮痛剤,抗精神病薬などの中毒が多い.
催奇形性
母体の疾病治療のために医薬品の投与を行う場合,その医薬品が胎児の発生・発育に悪影響(奇形)を及ぼすことがある.
母体の疾患が胎児に悪影響を与えると判断される場合を除いて,妊娠12週(特に9週)までは医薬品投与を避けるべきである.
授乳時の移行
ほとんどの医薬品が胎盤を通過するのと同様,程度の差はあるが,多くの医薬品が乳汁中に移行する.乳児への悪影響を及ぼす可能性がある場合は,授乳の中止という方法を選択できる.
小児への投与
小児では,新生児期から成人に達するまで,生体機能や臓器機能が著しく変化する.特に,体内の水分割合の変化,肝臓と腎臓の機能の変化は,体内での医薬品の動態に大きな影響を与えることになる.
小児に医薬品を投与する場合,医薬品の飲みづらさなどが服薬拒否の原因となるので,服薬ゼリーを用いるなど,服用させるための工夫が必要となる.
高齢者への投与
加齢により生理機能が低下し,医薬品の体内動態・効果に影響を与える.

パワーポイント「医薬品使用時の注意点
2.
医薬品添付文書の読み方
1)医薬品添付文書とは
2)医薬品添付文書のどこに注目するか
説明
医薬品の添付文書とは
医薬品の添付文書(図1-7)は,薬事法(52条)によって医薬品に必ず添付するように規定されている公文書であり,あらゆる情報媒体の基準となっている.
テキストP.14 図1-7「医薬品の添付文書の情報内容」を参照する.
医薬品添付文書のどこに注目するか:「警告」と「禁忌」
「警告」は,致死的またはきわめて重篤で非可逆的な(元に戻らない)有害反応が発現する結果,重大な健康被害につながる可能性があり,特に注意を喚起する必要がある場合に記載される.
「禁忌」は,患者の症状,原疾患,合併症,既往歴,家族歴,体質,併用薬剤から判断して投与すべきでない患者を記載している.

3.
処方から投与まで
1)処方
2)調剤
3)投与
4)患者への説明
5)患者安全管理
板書
処方から投与まで
1.処方
2.調剤
3.投与
4.患者への説明
5.患者安全管理
注意が必要な医薬品グループ
テキストP.20 表1-2「注意が必要な医薬品グループ」を提示する.
転倒・転落リスクと薬剤投与の関係
テキストP.21 図1-10「転倒・転落リスクと薬剤投与の関係」を提示する.
転倒・転落に関係する薬
テキストP.21 表1-3「転倒・転落に関係する薬」を提示する.

説明
処方
医療機関で投与されるすべての医薬品は,医師の処方箋に基づいて投与される.処方箋には,患者の氏名と年齢,医薬品名,分量,用法,用量,発行年月日,使用期間,医療機関名,処方医名などが記載されている.
テキストP.17 図1-9「処方せんの様式および記載の例」を参照する.
調剤
調剤は薬剤師の仕事である.医師が発行した処方箋内容を評価し,疑問点がないかを確認したうえで,処方情報に基づいて患者のために医薬品を調整する.
投与
入院患者に対する医薬品投与に関わる機会が最も多いのは看護師である.
患者への説明
患者に対して,医薬品投与の目的や投与(服用)時の注意点などについて,十分な説明をわかりやすく行う必要がある.
安全な医薬品を投与するための5つの確認事項(5R)を表示する.
患者に医薬品を適切に服用してもらうためには,7つの点について理解を深めてもらう必要がある.
患者安全管理
エラー回避のためには,医療機関内で起きたエラー事例から学ぶ必要がある.

テキストP.19にある(4)の1〜7を表示する.
テキストP.20(5)のしてはいけないことの1〜6を表示する.
まとめ
10分
授業のまとめ
説明
学習目標に沿って項目を説明する.

課題
以下の視点について整理する.
1. 薬の投与経路と薬物動態
2. 医薬品の適正な利用(薬剤利用時の注意,患者の安全管理)のあり方

予習
テキストP.23〜40を読んでくること.